見出し画像

骨法の堀辺が来た2

「アーそうですか! 何か用があるのですか?」その実、彼の用件は何であるか、もう判っていたのであるが、私はとぼけて、そう聴いた。
「少しお話したいことがあるのですが、お付き合いしてくれますか?」私はうなずいて堀辺の後にしたがった。写真で覚えている堀辺はもっと痩せた男と思っていたが、あれから太ったのかと思うほどに横幅が太い感じがした。堀辺は途中で振り返り、
「道着を着替えますか?」と言った。このときヤル気はないなと思った。
「ええ、着替えます。」というと、
「それでは、このあたりで待っておりますから」というので、そのままロッカー室に向かった。そこで指導員の稲益君を探し、「堀辺が来ているので、立会人として近くにいてくれ。」と言い、3階のホールに戻ると堀辺は反対の方を向いて安坐していた。
「彼は私の門人で稲益君」と紹介する。どう対応するかも私には感心があったが、その結果は予想はずれ、「貴方は、ここにいてもいいです。」この言葉はどう解釈すべきか、ちょっとその時は判らなかった。恐らく「貴方は、ここにいてください。」の意味だったのかも知れない。
私が反対側から出現したこと、門人を一人連れてきたこと、もっと彼を驚かせたのは着替えてきたときの姿が黒衣の道着姿と全く違っていたからであろう。
私も彼の前で安坐した。この瞬間、これは柳生流新陰流でいくべきであると思った。すなわち「有構殺人刀、無構活人剣」である。骨法堀辺の目的は判っている。会報号外に連載している「骨法52代司家堀辺師範の誤解釈を正す」に対する抗議なのである。だから、まずはガス抜きが必要である。ガスが入った風船は、これを叩けば破裂してしまうが、一週間もそのままにして置けばしぼんでしまう。針で穴をあければ急激にしぼむ。現在の堀辺はガスが一杯充満した風船玉である。「裁判でも何でも来い。」と言えばケンカになる。先ずは相手の言い分を全部聞くことである。瞬間「無構活人剣」で行くことにした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?