非力の養成(続)
養神館系合気道の基本動作として伝わっている非力の養成の表裏は、いずれも剣の操法に基づくもので、特に裏の場合は体重の移動に重点を置いています。この合気柔術専用の基本動作の目的は騎乗者用のものなのです。なお、この動作は大東流柔術にはありません、この柔術の対象クラスの者には教習の必要がないからです。
家老の息子、若殿クラスは、戦の場合第一線には出ませんが、指揮を執る場合は、最初から馬に乗らなければなりません、騎馬での武器操法これが合気柔術の基本動作なのです。
騎馬武士は、手綱を持たず、鎧の腰に少し緩く挟み、腰のひねりで手綱捌きをやると同時に体重の移動で馬の方向転換をやるのです。この要領はスキーの操作と同じと言われています。
また、ひざの屈伸が必要で、このひざ頭の使用に大東流技法の特徴があります。
非力の養成では、腰の高さが同じでなければなりません。そのためには後ろ足を伸ばしたままでは、途中で腰が浮き上がってしまいます。スムーズな腰の回転のためには、回転の前に後ろ足を少し曲げる必要があります。合戦の時は馬も人間と同じく怖い、信頼する主人と密着することで馬もあわてない、途中で急に軽くなったりすると、馬は前両足を上げる、手綱を持っていないので馬が不安定な動きをすると落馬につながるからです。
この基本動作があることだけを見ても大東流合気柔術が捕方武術ではなく、他の古流武術との違いが明確であることが分かります。鶴山先生のメモに、「捕方柔術は竹内流の場合、小具足(足軽)であり他は武士でない者も習うことができる捕方術である。」とあります。大東流は上級武士のものであり、柔術は鎧組打と殿中作法で構成されています。
さて別稿「非力の養成」でも触れましたが、
一般動作の表の場合に合気投があります。これは、片手投げは剣の理合であり同時に姿勢づくりが目的なのです。後ろ足を強く張らないと(えびらを伸ばす)敵を切れません。
剣を持つのと同一の動作で投げる。素振りだけでは実際の剣を使えません、負荷を付けて剣の理合を体で覚えるのです。足軽剣法では素振り用の木剣や鉄棒等で練習させますが、合気柔術の技法で同じ効果を出させる稽古なのです。これは以前の古流にはなかった秘密の鍛錬法だったのです。