竹下ノート
竹下ノートとは、海軍大将竹下勇が植芝盛平から教伝を受けた合気武術(大東流合気柔術)の稽古記録であり、大学ノートに記録されていたことから、俗にこう呼ばれています。正確には、合気術秘伝「乾」「坤」「地之巻」全3巻のことです。竹下大将は日記とともに合気武術覚書帳(稽古日誌)をつけており、これを体系的に全3巻にとりまとめたものです。
このうち「乾」「坤」2巻を難波誠之氏(竹下勇ノート復刻委員会)が復刻、合本の上平成19年2月に「合気術秘伝 乾之巻・坤之巻 合本」として自費出版されました。
また、竹下ノートに関する研究は、志々田文明氏(「合気道教室」著者)、工藤龍太氏の論文(合気道史における海軍大将竹下勇の覚書『乾』、『坤』(1930-1931 年)の研究)などがあります。文献的研究も実務者(技法等に詳しい者)的視点でみると興味深いと思われます。
ところで、大東流合気柔術は大東流柔術とは異なる技法です。その区分は指導を受ける対象者(世襲制による身分)からなされていました。
大東流柔術が諸流派柔術の秘伝を再構築した技法なのに対し、本質的に剣術技法であった大東流合気柔術は他の柔術には見られない非常にユニークなものだったのです。武田惣角から教わりながら盛平はこの技法を大本教の幹部に指導しました。ただし、素手の格闘術としては柔術の方が優れていますから、他流試合の可能性を考慮して指導していた惣角からするとこの合気柔術を盛平が東京で柔道や剣道の高段者に指導するのは少し無理があったと考えていたのです。
しかしながら、竹下大将は合気柔術の真価を実戦上の勝ち負けの試合を超えたところで認める慧眼の持ち主でしたから、合気柔術の稽古にも熱心になり盛平を支援したのでした。
さて、筆者は上記合本の全技を書き下し整理しましたが、筆者なりにその感想を述べますと、
当身、左右への入身転身が多用され、制御技はそのほとんどが合気柔術初伝技法(いわゆる合気道技法)であること、
一部返技(裏技)や多人数取も載っていること、
教伝時期が昭和3~6年ということもあり伝統的な技法の他、護身法的な技(短刀取)も多く、官憲を意識したものか対柔道技もあること、
対槍の応用技としての対銃槍(銃剣)、対ピストルもあり、大東流らしくバラエティーに富んでいること、があげられます。