大東流の三大技法(続)6
合気柔術
大東流三大技法でいう「合気柔術」は「柔術」とは系統が異なります。
その本質的な区分はその技法の指導を受ける対象者が異なっている点にあります。すなわち『護身杖道』の説明を借りれば柔術は青年将校向け、合気柔術は中間管理職たる中高年武士向け、という区分です。既述のとおり、大東流は世襲制を前提として、身分ごとに教える技法を分けたのです。それは、身分によってその職責が異なるため、それに必要な考え方や対処法など技法を通して学ぶという、大東流のコンセプトそのものなのです。
ところで、「柔術」は日本の素手格闘術の秘伝奥儀を集大成した技法ですから、個々の技術は柔術諸流派にあるものと同じです。一方、「合気柔術」は「柔術」と異なり、柔術諸流派には見られない非常にユニークな技法群です。具体的には、多彩な体捌(入身転身法)、多段返(返技)、蜘蛛之巣伝などです。鶴山先生は、合気柔術は初伝技法までが武術であって、その先はいわゆる武術ではない、と語っていました。「合気柔術」は江戸柳生系合気柔術と称するように、思考法・発想法を含め剣術由来の技法ですが、捌きに用いる個々の技術は「柔術」にあるのです。したがって、大東流を公の場で公開指導する以上、他流仕合の可能性を考慮せざるを得なかった武田惣角は「柔術」を重視していたのです。
合気道を習っているが、技がよく効かない、ということを感じられた方は多いと思います。それは、柔術テクニックを知らないで技を掛けようとしても上手くいかない、からです。柔術テクニックは頭の先から足の先まですべての部位の使い方を教えています(形に内包されています)。それらの一部を駆使しながらその先の応用展開やウィークポイントを教えるのが「合気柔術」なのです。