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大東流合氣武道2
(承前)しかるに支那事変以来、時局は益々重大となり銃後青年の訓練は日夜に緊要となったので、私は意を決し恩師らの了解のもとに昭和15年輝く紀元2600年を記念する意味から『惟神の武道』なる題名の下に本流の紹介出版をいたし、武道界はもとより朝野各方面に謹呈し、はからずも陸海軍を始め各方面から過分なる共鳴と激励を賜ったので、さらに研究を進めるとともに一部熱烈なる希望者に対し教授し、さらに昭和16年春大阪府警察本部長のお勧めにより、本流中最も警察官に適したる技を選び警官武道『捕技秘傳』を印刷し広く警察方面に配布して参考に供するとともに、大阪府の警察官に直接指導伝授を始めた。(続)
補足説明:支那事変とは、昭和12(1397)年盧溝橋事件を端緒とする宣戦布告に基づかない戦闘行為のこと、後に日中戦争と称されますが、支那事変という表記が当時の政府の公式見解でした。
『惟神の武道(かんながらのぶどう)門外不出 大東流合気武道秘伝』は、昭和15(1940)年11月に発効された非売品の図書です。本書の発効趣旨等について、同書「緒言」の“武道達成の祈願”の項から抜粋紹介(同書10頁)します。
「かくして吾等の大東流合気柔術は、聖業奉仕の間に、御神徳の御加護を蒙りて完成したのであるが、吾等はこれに満足せず、更に更に精進して、本武道の発展を期するとともに、単に我々直門のみの門外不出の武道たらしめず、この非常時局、未曾有の戦時下に於いて、技術家が技術の公開をするが如く、吾等もまたこの武術を天下に紹介し、もって神慮の万分の一に酬い奉らんとして、不肖も省みずあえてこの冊子を発光せる所以である。
大東流合気柔術の手数は2,884手、裏表の変化は千変万化であって、一々解説することは困難であるから、本編においてはわずかにその一部初歩につき、解説を試み参考に資せんとするものである。なお、この機会に往昔より伝わりたる銃剣道諸流派と道歌をしのび、最後に吾人(ごじん=我々)の私淑する剣聖宮本武蔵の略伝及び武道修行の規範ともいうべき獨行道を記し、座右の銘としたい。本冊子は年末多忙の間に急速に既述したるため、充分に意をつくすことが出来なかったことは、甚だ遺憾に不堪い(耐えがたい)が、他日補正するとともに今少し技法解説を完全にしたいと念願しておる次第である。幸いに御寛恕御叱正たまわらんことを冀(こ)いたい。」
警官武道『捕技秘傳』については、冊子は手元にありませんが、その内容は大東流合氣武道傳書全11巻の第10巻に合気道警察官用補技秘傳として掲載されています。