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塩田剛三先生の武勇伝(下)

(承前)塩田先生は軒下・電柱と身を隠して黒人兵の背後から気がつかれないように接近した。第一の攻撃目標はピストル兵だ、いきなり駆け寄るや相手の背中を右拳で軽く突いた。相手が向きを変えた瞬間、武器を持っている手を取り素早く一回転するや、相手は頭から真っ逆さまに路上に墜落、動かなくなってしまった、四方投であった。それは、アッという間に極まってしまった。
塩田先生が次の相手に立ち向かったとき、日本側有利とみた野次馬氏はそのきっかけを得て、石を投げるやら・棒きれで打ちかかるやら他の二人の兵士を袋だたきにしてしまった。ようやくサイレンの音がけたたましくMPのジープが乗り付け、のびてしまっている兵たちを荷物のように積み上げて連行していった。
乱暴者に大きく一矢報いた塩田先生を見た人々は、今目の前で行なわれた胸のすくような豪快な技が小柄なこの人のどこに潜んでいたのか、と思うと同時に敗戦のショックですっかりいじけた国民の中にも不正に対しては力強く立ち向かっていく人のいることをその姿の中に見いだし、塩田先生に感謝の念を持たなかった者は一人としていなかったように思う。
塩田先生は、その武勇伝も「その時のお礼の白米の天丼が何とうまかったことか、芋ばかり食べていた時のあの白い米の味は、未だ忘れない。」という。「おかげで、ご挨拶に遅れてネ、年始のお宅に失礼してしまったよ。」と良く話される。いかにも我々の塩田先生らしいところと思われる。(完)

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