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えびらを伸ばすこと(上)

えびらを伸ばすこととはから、その後の歴史秘話に関する鶴山先生のメモです。

三学五箇の習いに「さきの膝に身をもたせ、あとの膝を伸ばすべき事」がある。これは重心を前足に置く、同習い中の「身を一重(ひとえ)になすべき事」と重複する意味合いがあるが、ここでいう「あとの膝を伸ばすべき事」は極めの姿勢のことである。俗にえびらを伸ばす(張る)ということである。
箙(えびら)とは、矢を差し入れて背負う箱形の容納具ことで、これが曲がっていては用意した矢が落ちてしまう。えびらを背負うときは、体にしっかり付け口先が曲がらないようにすることであり、馬上武士の心得(馬が動くから)であることからの引用なのである。現代剣道でも先の足に重心を置くが、えびらは伸ばさない。古武道であるか撃剣であるかの本質的な違いである。古流剣術のように後ろの踵(かかと)を付け、さらに膝を伸ばすと、相手が引っ張っても動かないが、現代剣道の持ち方で両踵を上げていると、竹刀を引っ張られるとどうしても体が動いてしまう。現代剣道では身体を軽くし前進後退をスムーズに行うためこの形が良いというのである。古流剣術では身体が安定していなければ生身の人間を斬れないということで、足の問題は根本的に相反しているのである。これは体重の移動の話ではない、前の足に体重をかけるのは撃剣でも同じで、「後ろの膝を伸ばすこと」に対し「後ろの踵を上げ、膝を曲げる」のが現代武道なのである。
一方、新当流の一撃一刀は小具足刀法であるから後ろ足の踵に重心を置き相手を斬る。これはボクシングで言えばカウンターパンチと同じ要領である。新陰流兵法では、九箇の太刀の小詰にこれが入っている打太刀の攻撃をカウンターではね返すのである。それまでの当てる、ぶつける、なぐると言った鎧打ち物の刀法に小具足による軽装での動きの軽さでカウンターを狙う太刀なのである。このとき素肌武術とは違うので、両足を開き、両膝はバネが効くように曲げておくか、踵を地に着けていないと逆に弾き返されてしまう。

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