大東流基礎理論-戦術と戦略(上)
大東流の構成と西郷頼母の考え方を戦術と戦略という視点で整理した鶴山先生のメモです。
大東流技法には、新陰流兵法系(江戸柳生系)と小野派一刀流系の二系統がある。これはどういうことか、というと、江戸柳生系は戦略であり、小野派系は戦術技法なのである。
では、戦略とは何かというと、学研「新世紀」大辞典には、「戦争目的を達成するため総合的な準備計画、兵力運用の方策のことで、個々の局面に対応する戦術に比べ大局的なものをいう。」とある。要するに自軍にとって最も有利な条件、時と場所を選んで戦闘できるようにするか、敵にとってどれだけ不利な状況下で戦闘を強要できるか、この戦闘をどう組み合わせるかを計画することであり、この考え方を突き詰めれば闘わずして勝つことが最もよいということになる。ここに戦略的発想のポイントがある。
江戸柳生系合気柔術の技法は、このことを体得させる教えなのである。例えば、入身・転身法を用いて相手の動きの先回りをする(返技の防止法)、制した後も「誰何の事」で残心をとりつつも改悛の機会を与えるとともに実は蜘蛛の巣伝を用意して待っている、自在な捌き(奇変)で相手を混乱させる…、正面突破の小野派系柔術にはない発想なのである。ところで、相手の動きを読むには、相手のことを知り、現況の把握が不可欠である。そこで情報収集の必要性が認識されるのである。江戸柳生家はこれを宗矩、宗冬とそれぞれの方法で行っていたのだ。