応急処置法14
脱臼
「脱臼」とは、腕・脚などの各部関節がずれる状態をいう。自分の上達していることを知らず、少し上手になった初心者と組んで、技を強引に掛けた場合、肩の脱臼が起きる場合がある。乱取り中、相手の足の指を踏みつけ、相手は反射的に足を引くと、足指の関節が外れるときもある。
「脱臼」の現象としては、その部分だけ奇妙な形に曲がったり、皮膚に異常な出っぱり、へこみが見られたりする。この変形の状態は、正常な手足と比較するとすぐわかる。関節が外れるとひどく痛むので判断がつく。
しかし、注意しなければいけないことは、怪我をして数時間放っておくと、傷を受けたところは、内出血や内部の炎症のため腫れるので、変形した状態がはっきりしなくなることがある。「脱臼」したまま、応急処置だけで、長くそのままにしておくと、内出血した血が固まり、骨を戻すとき、それが邪魔となり、整復が難しくなる。
はずれた関節をもとに戻す動作を「整復」という。はずれた場所により特別な手法を必要とする(口伝)。「脱臼」の場合も整復の後で、「脱臼」以外の傷害がないか、専門医に診てもらう習慣をつけたい。
(『図解コーチ合気道』176~177頁)
補足説明:子どもはひじの脱臼(肘内障:ちゅうないしょう)がよく起こるそうです。筆者も子どものころ父親にたたかれ、ひじが外れ、電車に乗って「ほねつぎ」行ったことを今でも覚えています。大人は靱帯が発達して、骨が固定されていますから、少しくらいの力では脱臼しません。
大人の弱点は、肩関節です。肩関節は、浅く小さな関節窩(かんせつか)から、大きな上腕骨頭がはみ出しているというアンバランスな構造ですから、可動域が広い一方、限度を超えると準脱臼状態、骨の接触が断たれると脱臼状態になります。これを守るため肩関節回りには多数の筋が整備され複雑な構造になっています。我々はこの複雑さと、肩関節を守るための力を技として出力し活用しているのです。そういえば、横綱千代の富士も肩関節をよく脱臼していました。