認定証の発行
武道の継承に関する鶴山先生の考え方を記したメモです。
認定証の発行
武道界では、認定証すなわち目録・免許・奥入等、現在では段位・師範・範士等の発行者と受領者との間に組織が関わる地盤がある。そして・・・
①認定証を発行する資格は世襲ではない
②認定証を発行した人、その者がその流派の最高技術者であり、その人が信頼した人、または技術指導を受けた人、との間に師弟関係が生ずる
③親が技術者であっても、その子どもが親と同じ技術者になれるかどうかはわからない。そのため親の門人は子どもが引き継ぐことは出来ない
④武道流派の独占は出来ない
⑤あくまで個人技であるため、他人からの、その人自身の実力評価がものを言う世界である。
補足説明:師弟関係は、一種の権力関係と見ることが出来ます。日本の伝統的な武術・芸術等においては、その高度に形式化・様式化された技・芸を学ぶためにはローモデルが必要で、それが師匠なのです。師匠が長年の稽古・経験・感性によって磨いてきた技芸(名人芸)を習得するために、弟子は師匠が示す正確な所作を再生(見て・真似をすること)するべく絶対服従が求められるからです。一方、師匠にも権威が必要ですが、これは外部の権威者(大名・公家等)から認められたものでなければなりません。師匠個人・その者が属する組織集団(流派・血脈)に認められる絶対的優位性が必要ということです。
これによりヒエラルキー(ピラミッド型の階層的な支配)が形成され、より権威・権力が集中し技芸によっては神秘性や畏敬される組織集団になるのです。これは一種のエリート集団ですから、大衆は憧れ自分たちも習いたいと思うようになり、その技芸が大衆化されていくのでしょう。そうすると、免状などの認定証が別の意味を持ってきます。すなわち、エリート集団にはその背景となる文化的素養が形成されていますから、免状は最後の資格確認の証でよかったのです。ところが大衆化に伴い、免状は文化的素養の個人資産(文化資産)としての役割を担うようになります。そして逆説的ですが、技芸が広まり大衆化されると、そのエリート集団の優越性も高まるということでしょう。