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極意秘伝のはなし12
私が柔道の初段の免許を許されたときは、しめ縄を四方に張りめぐらした師範室に於いて、師範と面し、個人伝授が行われたのである。それには、まず立位の打込み、次に坐位の打込みより始まり、それに対しての取り押さえ、締め、関節技、当身、活法の方法を試験されたものであった。
現在における初段の免許は、取組勝負に勝てば、即日段位授与ということになり大部その内容が違ってきている。
武道界には数多くの流派があって、それぞれ流祖を中心として宗家が代々一家の術を相伝しているものである。古来から伝えられた柔術の技法は、東洋本来の思想によって法練され、日本独特の文化遺産として世界に誇りうるべきものである。しかるに世代の変遷に連れて、次第にその内容や実体も変質しかねない状態となりつつあることは嘆かわしいことである。
また、古流の技法も、その背景にあって、伝承の技法を意味づけ、方向づける伝書・巻物の多くは家元の秘巻として公開されることが無い内に、幾度かの天災・人災によって紛失・散失したものが少なくない。
柔道と東洋医学といかなる関連があるか、古流柔術の伝書から拾ってみよう。古流楊心神道流経絡之巻に・・・
(引用者注:中山先生の原文では同巻の冒頭「松風の殺」と最後の「烏兎」のみ拾われていましたので、読者の便のため、ここでは適宜補足しながら全文を引用します。なお、この伝巻は、人体の主要臓器の位置と機能、各臓器の連絡、いわゆる解剖・生理に基づく当身の活殺法に関する極めてめずらしいもの、と評されています。)