多人数捕之事
皆さんご存知の多人数捕、大東流合気柔術の代表的な技法の一つです。
大東流系の諸流派で、外見的には同じに見える技をやっていますが、そのコンセプトは柔術系合気柔術と合気柔術系合気柔術(柳生流柔術=合気道技法の原形)とでは異なっています。
まず、柔術系合気柔術の系列では、本来第5か条皆伝技法の一つとして最後に習う秘伝技に位置づけられます。大東流柔術は諸流派柔術の秘伝技(術理)を集約再構成させた技で、表技のみで構成され1対1の組形として相手を制圧する技法を学ぶものです。これら術理をマスターした後にその応用技法として多人数捕の形で見せているものなのです。
一方、合気柔術系合気柔術はいずれ多くの人たちを管理する立場に立つ上級武士用に構成されたものですから、最初(初伝)から多人数捕を想定した構成になっています。ここでは相手(多人数)を制圧するのではなく制御(意のままに支配する)する技法を学びます。なお、組形としては秘伝第7か条の多数之位に位置づけられていますが、立合技の見かけは柔術系合気柔術のものと差異はないのです。
では、「多人数捕を想定した構成」とは何をいっているのでしょう。
①入身・転身の教え 1対1の技なのに、入身からクルクル回ってみたり、あっちこっちに動いてみたり、全く無意味な動作に見えますが、多敵を意識した体捌きを最初から体に叩き込むのです。目の前の敵を盾に、敵にぶつけて、身を守る(脱出を図る)教えです。
②稽古方法の教え 例えば、片腕取りでは、我の左袖口を掴ませる→ひじ生地を掴ませる→肩生地を掴ませる、のように攻撃場所を変化させ同じ技で制する稽古をします。なお、左腕のみ稽古するのは、多くの人が右利きなので、左技だけ稽古しておけば右技はすぐできる、という経験則からの教えです。上記例では、3カ所の掴み方でしたから、これに右敵を追加すれば、二人捕、四人捕、六人捕ができるという発想なのです。いつでも多人数の稽古が出来るわけではありませんから、重要なパーツのみ稽古することで、その先をシミュレートしているのです。
③半座捌きの教え 半座は室内における騎馬鍛練法の一つで、多人数捕においても難易度が高い半座捌きを基本としています。ここでは立合は応用技法の位置づけになります。
④抜力の教え 多人数捕は力を抜いて相手の力(体重)を利用しないと技ができません。上級武士には高度な判断や審判が求められます、肩に力が入って自分の考えを押しつけようとしては、上手くいきません厳格厳正な判断には一歩引いた目線が大事です、多人数捕の稽古を通してこれらを体から教えようとしているのです。
なお、鶴山先生によると武田惣角は柔術系合気柔術の多人数捕を旦那芸として教えていた、とのことです。
多人数捕もこのような背景を理解して稽古するとより楽しいものになる、と思います。
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