沢庵和尚23
「不動智神妙録」は、そもそも沢庵が宗矩の要請に応えて著した私信だったので、最初から題名が着いていたわけではない。これが有名になったのは、宗矩が兵法書として門下に与えたからであった。江戸時代に相当流布され、その題名も「不動智」「神妙録」「石火機」「兵法之書」「剣術法語」などと呼ばれ、抜粋版、簡略化版など様々な形態で広まっていた。
さて、流祖上泉伊勢守は、自ら編み出した兵法を単なる剣術(殺傷技術)ではなく、修行によって、仏教の解脱の境地に通ずるものとしてとらえ、これを禅の章句など用いて説明(書伝)している。流祖以来の剣禅一如の考え方をさらに精緻にしたものが「兵法家伝書」であって、その理論的根拠を与えたものが「不動智神妙録」であったわけだ。
沢庵の教えを一言でまとめれば「剣術修行に求めるべきものは、何ごとにも心を止めず、無心無念で臨機応変に自在に動ける境地である。」となる。この境地を「不動智」という禅語を用いて説明したのである。この不動智という境地を様々な例えを用いて縦横無尽に解き明かすため、個条書き的に整理されている。