杖道護身の心得3
(承前)宮本武蔵が30歳のころから気づきだし、齢50にして、ようやく達した人間の完成については『五輪書』に「おのずから兵法の道にあう事、我五十歳のころなり、それより以来は尋ね入る(探求す)べき道なくして光陰を送っている」と述懐しているが、これが山岡鉄舟の築いた剣禅一如に続くもの-生死を超え勝敗にかかわらない真の人間を完成する禅道-なのであります。宮本武蔵の巌の身、新陰流兵法の西江水、針ヶ谷夕雲(せきうん)の無住心、辻月旦の一法実無外、坂口勝清の発性、神谷伝心斎の直心などは、この期における剣者が命の根源を直指し、生死を覚証したその悟境の表出に外ならないものとして、生死の場において活用する剣法の正しい真剣形を受身技として習得することを目的としたのが杖道であります。心なきものがこれを悪用すれば凶器不詳におちいります。(続)
補足説明:針ヶ谷夕雲(せきうん)は無住心剣術の創始者、絶対の真理は一つしかないとする辻月旦の無外流、東軍無敵流の坂口勝清、真新陰流を直心流と改めた神谷伝心斎、いずれもその道を究めた方々です。筆者はこれらの流儀については存じ上げませんが、宮本武蔵のことは『五輪書』他から、新陰流兵法は実技と各種伝書類から一定程度わかります。いずれも、体の使い方・技術を分析・整理・見える化し、これらを極めることから心のあり方を追求していく、というアプローチです。体を使うことで思考に具体性をもたらす、ということでしょう。