恩師のこと
1 恩師のいる幸せ
読者の皆さんは、「これが恩師だ!」という方がいらっしゃいますか?
いらっしゃる方は幸せです。
仰ぎ見る存在があるのは、よいことです。
私の場合、大阪府立大学に入学してお会いした阪口玄二先生が恩師といえる方です。
公衆衛生学講座講座にはいったとき、すでに阪口先生はボツリヌスの権威で、当時のボツリヌスの論文はほとんど Sakagichi の名前で引用がされていました。
英語もすばらしくご堪能で、何しろ戦後すぐフルブライトで渡米された方ですから、いろいろな先生が英語を見てもらいに講座を訪れていました。
理科系ですから,実験の方法や考え方など、教えを受けたことは限りなくありますが、一番価値のあるお教えを頂いたのは、私が退学を考えたときです。
大学院時代、母がひどい喘息にかかり、登校できない日が続きました。出席もままならない日々が続き、これはもう駄目かと、退学を相談しましたところ、先生がおっしゃったのは、
「状況がよくないとき、大切な決断をしてはいけない。」
ということでした。これは今も大切な言葉としています。
2 なぜ状況がよくないとき、大切な決断をしてはいけないのか?
先生も東名高速を車で通行中、五重衝突に巻き込まれ、半年以上入院されたことがあったそうです。そのときのご経験からのお言葉だと思います。
私もようやく母の病状がよくなり、なんとか卒業をすることができました。この言葉がなければ獣医師似内は存在しないのです。
良い時は軽い判断でもなんとかつじつまが合ってゆくものですが、悪い時はちょっとした判断の誤りが大きな影響を及ぼします。人はいつも順風が吹くわけではありません。逆風のときこそ、立ち止まってよく考えることが必要なのだと思います。
3 恩師とのその後
阪口先生は引退されてから、宮崎県に移り住まれました。その時に息子とご自宅にお伺いしたことがあります。宮崎県名物、チキン南蛮をごちそうになりました。逝去されてからお墓参りもできていません。なんだかんだとできない学生でしたが、開業もできたことをご霊前にご報告したいものです。
似内惠子(獣医師・似内産業動物診療所院長))
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似内のプロフィール
https://editor.note.com/notes/n1278cf05c52d/publish/
ブオールアバウト「動物病院」コラム
https://allabout.co.jp/gm/gt/3049/