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動物病院のチェーン化について考える



アメリカでは主流となっている病院のチェーン化、これからの日本でも避けられないことでしょう。特に、私学で多額の学費を支払って卒業し、臨床を希望する獣医師がいる限り、病院は増え続けます。増え続けて当然利益の出ない病院も出てくる訳で、社会資本の損失という観点から、こういう方々の受け皿も必要です。
病院のチェーン化・動物病院の大規模化・法人化はそういう意味で、悪くないことだと思っています。いくつかの問題点を除いては。

1 考えられる問題点
まず、人材確保という点では、開業してうまくいかなかった人や、研修をしたが開業には躊躇するという人を雇用すればよいので、その点は困らないでしょう。問題は給与体系であると思われます。

儲かっている支店あれば儲からない支店もある訳です。給与は各支店で雇用される獣医師が納得のいく基準で決定する必要があります。忙しいところ(よく利益を上げているところ)と暇なところ(利益が上がっていないところ)で給与が同じというので、不満は出ないのでしょうか。

理想は基本給プラス歩合制でしょうか。
さらに、「個人病院の代診より条件がよい」と言うからには、給与を上げていかなければなりません。給与はどんな風に上がるのでしょうか?本当に上がるのでしょうか?そこもたいへん関心のあるところです。

病院チェーンを作る側は、「今まで院長に吸い上げられていた利益を雇い人にも均等に分ける」というちょっと共産主義的なキャッチで新卒や既卒を集めようとします。
しかし、個人病院の院長は本当に利益を独り占めしているのでしょうか?利益の大半は設備の再投資に向けれられているはずです。設備再投資はチェーンでも必要、場合によってはショッピングセンターのテナントに入るなどの出費も必要です。それで本当に、「雇用されてよかった」というだけの給与が出せるのでしょうか。スタッフの移動や新規採用に際して、それ相応の住居施設などのサービスも必要です。そこまで段取りができるのでしょうか?

国家公務員や地方公務員ははなぜ転勤して翌日から出勤できるのかと言うと、それは公務員住宅があるからです。私もお世話になりました。そうした施設や住居手当にも経費がかかります。国や地方自治体が負担してくれるからこそ、移動費も出て、駐車場こみで1万円を切る家賃で入居ができるのです。だから転勤・転職はしてもいいかなという判断になります。

アメリカに学ぶことにより解決できることもあるのでしょうが、日本は日本の問題が出てきますから、そこをそのつど解決する必要があると思います。

2 美味しいところだけ持っていく?

実は一番懸念しているのは、商業施設などに入るチェーン病院であると、当然夜間などはセキュリティの問題で病院を開けられないことです。こうした病院の経営者は

「ワクチンとフィラリアの投薬だけでいいから」

と若い獣医師に指示します。あとは同時にトリミングで儲ける構図です。

今まで何名かのクライアントさんにお聞きしたことがあります。それは
あなたはどうして今の病院に決めたのですか?」
ということです。多くの方が
「夜間に具合が悪くなったとき、診てもらいました」

「普通だと高額になる手術を安くしてもらいました」
という返事をされました。

要は「病院から飼主さんへの貸し」ですね。貸しは悪いことではなく、より深い信頼関係の構築です。そういうことなしに、無難でおいしいところだけを取る経営って、どんなもんでしょうか?

私が小動物診療の研修に行ったある病院で、院長が説明してくれた薬品がいくつかあります。そしてそのときこうした説明を受けました。

「この薬は開業の間に一度使うか使わないか、そのくらいのものです。しかし私たちはそうした場合に備え、飼主さんの期待に応えるために準備しておかなければなりません」

この言葉は若かった私に強い印象を残しましたし、今もそうです。

チェーン化で唯一許容できるとしたら、本院が高度医療のできる最新設備を持ち、そこに分院のクライアントをつれて来る場合でしょう。これも経費がかかり、一層大変な課題ですが。

【画像解説】12年間家族に仕えてくれたレトリバーのサクラです。


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