天剣術(5)〜天剣と「状態が運命をつくる」
凡智 さてもさて。本日もヒロちゃんさんに天剣術のお話を伺いに参りました、と。ごめんくださーい …あれ?お留守かな
剣術家ヒロちゃん(以下、ヒロ) おー、凡智さん、いらっしゃい
凡智 あ、ヒロちゃんさん、お出かけだったんですか?
ヒロ はい、きょうは諏訪に出かけていました
凡智 諏訪ですかー、諏訪大社へお詣りかなにかですか?
ヒロ いえいえ「天剣教室」ですよ
凡智 あー、諏訪で開催されてきたのですね
ヒロ そうなんです。玄関先ではなんですから、まずはおあがりください
凡智 はい、失礼いたします
(…暫時経過)
ヒロ そうそう、聞いてくださいよ、凡智さん
凡智 なんでしょうか?
ヒロ いえね、松本駅から諏訪市の上諏訪駅に向かおうと、特急しなのに乗ったまでは良かったのですが、購買所で「おすすめナンバー1」のシールが貼ってあった「みそパン」をほおばりながら、のんきにスマホをいじっていたら、すっかり駅を降り忘れてしまって木曾福島まで行ってしまったんです、あはは
凡智 えー?!
ヒロ ほんと、えー?!ですよね。でもね、不思議と「どうしよう」とか「うわー失敗したー」とかの焦りとか不安はなくて、晴れている空をながめながら「今日は良い天気だなあ」と、いたって心はおだやかでした
凡智 いやいや、ヒロちゃんさんの心がおだやかでも、会場で待っておられた参加者の方の心はおだやかじゃなかったと思うのですが
ヒロ でしたかねえ、あ、でも、当日は合気道の先生とのコラボ企画でしたので、合気道の先生に連絡して「先にすすめておいてください」とお願いしました。もちろんお詫びした上でですよ
凡智 お相手の先生はお怒りではなかったですか?
ヒロ そうですねえ、内心はわからないですけれども、「気を付けてお越しください」とのことでしたので、大丈夫だったかとおもいます。ほら、これが木曽福島に着いた時の写真です
凡智 ほら、って。また、のんきに3枚も撮影して。でも、ほんとうに良い天気だったみたいですね
ヒロ はい、この日は気温も比較的高めで陽ざしもあたたかでした。ところがまだ続きがあるのですよ、凡智さん。
凡智 と申しますと?
ヒロ そんな感じで気持ちも安らかに電車に揺られていたら、車内アナウンスが流れて「ただいま松本行の列車が遅れています」とのことで、ちょうどタイミング良く戻りの列車に乗れたのです!
凡智 なんと!それはベストタイミングですね
ヒロ はい、ほんとうだったら1時間以上、木曽福島で待たなきゃいけなかったのに、十数分で列車に乗ることができました
凡智 へえ、そんな偶然もあるんですねえ
ヒロ いえいえ、それが偶然じゃないんですよ、凡智さん。これは「状態」がもたらした必然の結果、当然の帰結なのです
凡智 えぇっ? どういうことでしょうか?
ヒロ その日は電車の中で佐野直樹著『インド式「グルノート」の秘密』という本を読んでいたのですが、そこに「状態が運命をつくる」ということが書いてあったのですよ
凡智 状態が、ですか?
ヒロ はい、本を読み進めていたときに、わたしの眼に飛び込んで来たのは、その一節だったのです。それを読んでわたしなりに解釈したのは、「良い状態は良い運命をつくり、悪い状態は悪い運命をつくる」ということです
凡智 良い状態、悪い状態とはどういう状態なのでしょうか?
ヒロ はい、その本の中では悪い状態とは苦しんでいる状態のことだと説明されてありました。苦しんでいる状態とは、恐れや不安、怒りや悲しみ、焦りや嫉妬で心がかき乱れている状態のことです。そういう状態で、ものごとを考えたり実行したりしても、うまくいかないよ、ということなのです
凡智 なるほど、では良い状態とはどのようなことなのでしょうか?
ヒロ はい、良い状態とはどういう状態なのかというと、それは「美しい状態」であるというのです
凡智 へえー「美しい状態」ですか、すてきな表現ですね
ヒロ そうでしょう? 表現そのものが、すごく美しいとはおもいませんか? わたしはその説明を読んですっかり心が満たされてしまい、陶然とした心地になってしまったのです。
凡智 それで駅を降り忘れてしまっても焦りや不安がなかった、ということですか?
ヒロ はい、そうなんです。戻りの列車も時折みそパンをほおばりながら、車窓から風景でもながめて帰ろうかなと思っていたら、ちょうど良いタイミングで戻りの列車が到着するというじゃありませんか。わたしはそれで「あー、これが状態が運命をつくるということなのか!」と、とても嬉しくなって感動してしまったのです
凡智 はあー、そういうことがあったのですね。ところでヒロちゃんさん、状態というものをもう少し解説していただけませんか?
ヒロ はい、状態というのはどういうものかいうと、わたしたちの心や意識、思考や行動といったものは何層にも分かれているのですが、それをインド古来の内観法によって細かく分類すると以下のようになるようです。
「運命」は習慣がつくる、
「習慣」は行動がつくる、
「行動」は性格がつくる、
「性格」は気質がつくる、
「気質」は気分がつくる、
「気分」は感情がつくる、
「感情」は思考がつくる、
「思考」は意識がつくる、
「意識」は状態がつくる
これをまとめると「状態が運命をつくる」となります
凡智 そんなに細かく分類できるのですね。ところで気質とか気分というのは何でしょうか?
ヒロ それを説明するとむずかしくなってしまうので、あとは本にお譲りします。大切なことは「運命」とひとくちに言っても構造が何層にも分かれていて、その階層の大元に「状態」があるというところです。
凡智 たとえてみれば物理学のカオス理論の「初期値」のような感じですか?
ヒロ それは良いたとえですね。カオス理論では初期値がちょっとでもズレると、将来の振る舞いに大きな違いをもたらすそうですね
凡智 はい、「初期値鋭敏性」というやつです。「バタフライ効果」とも言われています
ヒロ そのたとえでいえば初期値が「良い状態」から出たおこないと、「悪い状態」から出たおこないとでは天地を懸隔するほどの差が出るといえそうです。もう少し話はつづきますので、お茶でもお持ちしましょうか
凡智 あ、お構いなく。いつも申し訳ありません。
ヒロ いえいえ、ご遠慮なさらずに。ちょっとお茶を淹れてきますね
(つづく)