レーエンデ国物語 一巻 ー革命の話をしようー
本屋大賞にノミネートされたファンタジー小説、レーエンデ国物語。現在4巻まで発刊されています。
話題になっていたけれど、その分厚さに圧倒され、しかし、その美しい表紙に心惹かれ、何度も手に持ったり下ろしたりを繰り返し、ようやく購入しました。
私のように分厚さに躊躇している方はぜひ、手にとって欲しい。するするするする、と読み進められる。読みやすく洗練された文章で、でも美しくも恐ろしいレーエンデの世界は濃密で、あっという間に異世界に連れて行ってくれる。
シュライヴ騎士団、団長の娘、ユリア。彼女の父親は英雄であった。しかし、ユリアの母は異国人であり、ユリアを生んですぐ他界した。騎士団団長であり、英雄である父は城を不在にする日々が続く。
異国人である母の血を色濃く表した美しいユリアに、城の人間は冷たくあたる。英雄である父の手前、大っぴらに蔑まれることはなくとも、小さな悪意は彼女を締め付ける。そしてシュライヴ州の安寧のため、父のいない間を縫って政略結婚の話を進めようとする。
15歳になった時、ユリアは貿易路の建設のためにレーエンデに向かうという父に、約束を果たせと詰め寄った。
「シュライヴの英雄が約束を破るのですか」
ユリアは幼い頃に父と約束をした。『もう一度、レーエンデに行くことがあれば、必ず連れて行ってくれ』と。
かくして彼女は逃げるように城から抜け出した。深い後悔に苛まれながら。そして出会う。琥珀の瞳と浅黒い肌を持つ美しい青年、トリスタンに。トリスタンは元傭兵であり、弓矢の名手であった。
冒頭、トリスタンと英雄ヘクトルとの出会いのシーンが描かれるが、これが非常にかっこいい。
裏切られ城砦に取り残され、しかし傭兵の信頼を守るため、逃げることは出来ない傭兵団。トリスタンは命などいるものかと、城壁に身をさらし弓弦を引き続ける。そこに援軍に来たシュライヴ騎士団。ヘクトルは群がる敵兵の中、自ら兜を投げ捨て顔をさらして叫ぶ。
「腕に覚えのあるものは、この首を取って名を挙げよ!」
増援は僅か30騎。敵兵の視線を自分に集めるための捨て身の策だった。そしてトリスタンは混乱の戦場で最後の一本となった矢をつがえるー。
トリスタンも作中で言っている通り、ヘクトルが非常にかっこいい。というか、彼は作中通してずっと格好いい。良き父親であり、愛すべき相棒であり、英雄である。方向音痴であるが。しかし、そんなヘクトルも無類の戦好きという残虐な悪魔を腹に飼っていた。
トリスタンとユリアの恋と絆の話は本当にきゅん、とするがヘクトルとトリスタンの年の離れたコンビ(後にヘクトルはトリスタンを盟友と呼んでいる)が非常に楽しい。まさに英雄✨✨とヘクトルを慕いながらも、厳しいツッコミを入れ悪態をつくトリスタンが大変いい味を出している。
ヘクトルを守ろうと誓うトリスタンとユリアは共におっさんが大好き過ぎる。可愛い。
読んでいるうちに彼らが大好きになる。
前半は非常に穏やかに優しく放牧的に物語は進行していく。けれど、静かにユリアに忍び寄る運命と宿痾。彼女を守ろうとするトリスタンはハグレモノの烙印を刻まれ追放され、それでもユリアを守ろうと死ぬまで戦い続ける。まるで、これからレーエンデに訪れる困難の歴史を体現するように。
けれど、トリスタンは決して絶望していなかった。最期の瞬間にも笑顔を浮かべた。
シュライヴの父娘に喝采を。
レーエンデ国物語、非常に面白い。最終巻が出る前に出会えて本当に良かった。2巻を読み終わったら、また日記を書きます。
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