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『羅生門 蜘蛛の糸 杜子春 外十八篇』を読んだ感想


『羅生門 蜘蛛の糸 杜子春 外十八篇』を読んで、改めて芥川龍之介の作品の深さと鋭さに圧倒されました。

特に彼が描く人間の本質や道徳の曖昧さ、社会の冷徹さには、いつもながら心を突き刺されるような感覚を覚えます。

『羅生門』の中で、下人が極限状態で取った選択を読みながら、彼の行動に共感してしまう自分がいることに驚きました。

道徳や倫理が完全に崩れ去る瞬間、その人物がどれだけ人間らしく見えるのかということに、芥川が深い問いを投げかけているように感じます。

最初は単なる社会の冷徹さが描かれているだけのように思えますが、読んでいるうちに自分が同じような状況に追い込まれたとき、同じような選択をするのではないかと不安になるのです。

『蜘蛛の糸』では、仏の慈悲と人間の欲望が対照的に描かれており、この物語を通して芥川が訴えたかったのは、たとえ救済のチャンスを与えられても、それをどれだけ自己中心的に使ってしまうのかということだと思います。

罪人の行動に非常に皮肉を感じつつ、彼が犯した過ちが自分にも通じるものではないかと考えさせられました。

私たちはしばしば「他者を助けよう」と思いながらも、結局自分の利益を優先してしまうことがあるのではないか。

芥川はその点を容赦なく暴露していて、その潔さがまた強烈です。

『杜子春』に関しては、物語が進むにつれて杜子春の成長と葛藤に共感を覚えましたが、その成長の過程で彼がどれほど自分の欲望と向き合い、また時にそれに振り回されるのかを考えると、非常にリアルに感じます。

自己実現を求める気持ちや、社会に対する不安、周囲との関わりの中でのジレンマなどが巧妙に描かれており、ついつい自分も同じような葛藤を抱えているのではないかと思いました。

全体を通して、芥川の作品は非常に多層的で、ひとつの物語を読み終えた後にも、考えが次々と湧き上がってきます。

彼の作品には、単なる物語以上のものがあり、道徳的な問いを投げかけると同時に、読者自身がどのような倫理観を持ち、どのように行動するべきかを考えさせられます。

短編でありながら、その影響力は計り知れません。彼の描く人間の弱さや愚かさに、心がざわつくと同時に、その現実を受け入れることで少しだけ成長できるような気がする、不思議な読後感を味わいました。

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