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飽満のつり人たち

短編小説: 飽満のつり人たち

夜が更け、仲間たちは夜釣りの準備を始める。

釣りの前には、必ず満腹になるまで食事をするのが彼らのルール。

今夜、彼らは島々が連なる静かな海へ向かう。

最初の夜は、馴染みの定食屋に集まった。


主菜は家庭的な味で飽きが来ない。また嬉しい事に白飯がおかわり自由な定食屋。

先輩の圭介は、サービス品の大根キムチを食べながら白飯を何杯も食べる計画を立てていた。

「今夜も腹いっぱい食おうぜ!」

食事が始まると、圭介は次々とおかわりを頼み、仲間たちもそれに続く。

「圭介、よくそんなに食えるな」と呆れながらも笑う仲間たち。

食事を終えた彼らは、満腹感とともに夜の海へ出かける。

釣りの準備を整え、波の音を聞きながら釣り糸を垂らす。

しかし、満腹感が彼らの集中力を奪い、釣りへの意欲が次第に薄れていく。

「仕掛けを変えてみようか?」と誰かが提案しても、皆はただのんびりと海を見つめるだけだ。


次の週の夜、彼らはラーメン屋に集まった。

注文したラーメンが出てくるまでの間、テーブル上に置かれたサービス品のゆでたまごを何個も食べるのが恒例だ。

圭介はゆでたまごを手に取り、次々と食べ始める。

「ホントに食い意地、張ってやがるな」と笑いながら、仲間たちも次々とゆでたまごを手に取る。


食事を終えた彼らは、満腹感とともに夜の海へ出かける。

釣りの準備を整え、波の音を聞きながら釣り糸を垂らす。

この夜も同じだった。

満腹感が彼らの集中力を奪い、釣りへの意欲が次第に薄れていく。

「エサを変えてみようか?」と誰かが提案しても、皆はただのんびりと海を見つめるだけだ。


圭介:「メシ食い過ぎて、動くの面倒になっちまったな」

友人A:「そりゃそうだろ、あれだけ食べりゃ誰だってそうなるさ」

友人B:「じゃあ、オマエ空腹で来いよ」

友人A:「嫌だね。オマエ何基準で生きてんの?」

圭介:「そういえばさ、満腹になると狩猟本能が薄れるって…あれ、なんだっけ? あの…サ…ナントカ遺伝子」

友人B:「サーチュイン遺伝子のことか?お前、ホントにその理屈で合ってんの?」

圭介:「俺たちが腹ごしらえしてる間に、魚たちも腹いっぱい食って、まったりしてんじゃない?」

友人A:「まぁ、その理屈なら今頃、魚の頭の回転も落ちてるはずだよな」

圭介:「!。それって、オマエら・・・チャンスだろっ!今がっ!」

友人B:「・・・」

友人A:「・・・」

圭介:「なんだよそれ。魚よりヤル気ねえじゃん。そんなんで、釣れるかっ!」

皆、大笑いした。

その夜も釣果は芳しくなかった。

「あ~あ。釣れねーなー」
つぶやきながら寝転がる圭介。

彼らの釣行は、毎度の楽しい夜食と夜釣りの組み合わせで彩られていた。

どこまでも続く楽しい時間の中で。

~飽満のつり人たち(終)


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