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釣りエッセイ「試考策魚」Vol.1 アユイング(1)
「釣れない」から「釣れるようになる」までの過程がとても楽しい。
興味を持ち、調べ、作り、試し、振り返る。フィールドで気付き、自然に、魚に教えられ、たまに感動もして・・そしていつの日にか「釣れるようになる」。
これが、たまらないのです。
「アユイング」第1話です。
山へ出かけた時、清流を見ました。そこには長い竿を持った鮎釣り師の姿がありました。「いつかは鮎釣りをしてみたい」。そう思いましたが、鮎釣りの道具はとても高価でためらいがありました。
釣り竿の進化は鮎竿が牽引していると言っても過言ではないと思います。フィッシングショーで最新の鮎竿を手にしてみると、あまりの軽さに驚かされます。
アユ釣りをした事は無いけれど伝わる凄さ。そして間違いなく高価である事が。
ある日「アユイング」の動画を見ました。「アユイング」は日本の伝統的な鮎の友釣りとは少し異なる、最近始まった鮎のルアーフィッシングです。
そしてまたある日、河川の漁業共同組合が組合員の高齢化で解散したニュース、水質が改善した川に鮎が戻って来たニュースを見ました。
勘違いかも知れません。鮎釣りについて、何かが変化しているのではないかと感じた私は図書館へ出かけ、鮎に関係する本をいくらか手に取って読んでみました。ネットの情報も読みました。
鮎の生態、河川工事の話、川漁師の話や食文化の事まで。日本の生活や文化に長い年月をかけて沁み込んでいる事が良く分かりました。
調べて学んだ事を次に記してみます。鮎は川の下流域で卵からふ化して海へ下り、冬の間は海の沿岸部でプランクトンなどを食べて育ちます。春になると稚鮎は川を遡上し、中流域から上流域に住みつきます。
この頃になると川の中の石に着いた苔を食べる様になります。そして自分の食べ物を確保するために縄張りを持つようになります。
自分の縄張りに他の鮎が入ってくると体当たりして追い出します。この習性を利用したのが鮎の友釣りです。針をつけたオトリの鮎を泳がせ、それに体当たりしてくる鮎を引っかけて釣る方法です。
鮎は生えたての新鮮な苔を食べます。新鮮な空気を含んだ速い水の流れと、光合成ができる水の透明度が必要となりますから、鮎の住む処は必然的に清流となります。
夏の間、縄張り争いに明け暮れた鮎達は、秋になると川を下り、下流域で産卵し一年で一生を終えます。なんだか短く儚いですが、脈々と命を繋ぐ為に暑い夏の縄張り争いに励んでいるとも思えます。
鮎達にとって今の日本の川や海は住みやすいのでしょうか?ふ化した鮎が育つ海の沿岸部はコンクリート護岸が多く、良い環境にあるとは言えません。
稚鮎は川を遡上する時に人工の堰やダムに行く手を遮られます。遡上用の魚道の整備も進んでいますが、魚道を設計する方と魚類を研究される方との情報共有が足りず、稚鮎の力では遡上できない設計になっている魚道も数多くあるみたいです。地域住民が土嚢や石を積み上げ稚鮎が遡上できる魚道を作る試みもされています。
魚道によってはカメラやカウンターが設置されて稚鮎の遡上数がインターネットで確認できたりもします。遡上は春の風物詩にもなり、人々に関心を持たれる魚である事も確かです。
稚鮎が海から全く遡上できない川もあります。では、その川の鮎達はどこから来たのでしょう?
それは、その川の漁業共同組合が鮎を放流しているからです。養殖の鮎であったり、海の鮎であったり、琵琶湖の鮎を日本各地の河川漁業組合が購入して放流しているものなのです。
もし、漁協の組合員さん達が高齢化して放流事業を続けられなくなったら翌年からその川から鮎の姿は消えてしまう事になるのです。
アユ釣り人口は減少し、愛好者は高齢化しているみたいです。趣味で鮎を釣る人は游魚料を漁協に支払う必要があります。この料金も漁協が放流事業を続ける為の資金となっていますので、鮎を釣る人が減ると放流事業を続ける事が難しくなっていきます。
問題の一面を切り取っただけではありますが、そのような事情もあって鮎の永続的な繁栄は安泰ではないのです。
もちろん自然環境が守られて天然遡上の鮎が永続的に続く川もあります。少しづつでもそういった環境に近づけていく必要がありますね。
ここでアユイングのお話をします。鮎の友釣りはオトリに生きた鮎を使いますがアユイングのオトリはにミノータイプのルアーを使います。友釣りは長い鮎竿を使いますが、アユイングはリールの付いたルアーロッドを使います。
アユイングは釣り具メーカーが仕掛けた鮎釣り人口を増やすキャンペーンだと思います。
本格的な道具を揃えなくても始める事ができます。鮎釣りの楽しさを多くの釣り人に知ってもらい、鮎釣りが出来る環境を維持したい想いがあるのだと思います。もちろん企業ですから新たな市場開拓でもあるでしょう。
鮎の友釣りをするのなら、オトリ鮎をお店で購入して弱らせない様に川まで運ぶ必要があります。水が入った容器に鮎を入れて河原を歩くのですから初心者には大変な作業です。
オトリ鮎は生き物ですから疲れたら弱ります。弱ったオトリ鮎には体当たりの攻撃して来ませんから、釣れた元気な鮎を次のオトリ鮎へと交換する必要が出てきます。
釣れたら次のオトリ鮎に、釣れたら次のオトリ鮎に、このオトリ鮎の交換も初心者には大変な作業です。
オトリがルアーであれば、持ち運びはポケットで済みますし、疲れて弱る事もありません。
これらの要素が楽に鮎釣りを始める原動力となります。
私は普段ルアーフィッシングをしますので、所持しているロッドとリールのどれかは利用できそうです。
他にも必要なものがあるのでしょうが、その前に自分が通える範囲にアユイングを許可している河川があるかどうかを調べる必要があります。鮎釣りを行っている河川の一部でしかアユイングは許可されていないのです。
鮎の友釣師はいくら釣り場が混みあっていても、隣の釣り人とは最低でも20~30メートルの距離を置くのがマナーとなっています。
竿の長さが10メートル、仕掛けの長さが10メートルともなればそのくらいの距離をとるのが自然なのでしょう。
そこへリールを付けたアユイングアングラーが間に入ったり、友釣り師がオトリ鮎を操作する範囲内にミノーをキャストするトラブルが考えられます。
異なる釣り方に対しての配慮不足やキャスティングという行為が許可されない理由のひとつになっていると思います。
私は自宅から通える範囲にアユイングができる川を探し、見つけました。ついにこの日、心が決まったのです。『アユイングを始めてみよう』。
先ずはアユイングの入門書を購入しました。釣りに行く前の準備、川の下見の方法、ポイントの見つけ方、川の中での立ち位置、ルアーの操作方法、釣り全体をイメージする為にも必要でした。動画や釣り番組では情報が断片的だったからです。
ロッド、リール、ラインシステムは普段使用しているエギングやライトソルトの物が使えそうです。肝心のミノーはどうでしょう。
シーバス用の8~10センチ程度の物が流用できるとありますが、シーバス用のミノーを速い川の流れの中でステイさせた事などありませんし、どうアクションするのか想像がつきません。
ミノーの使い方としては川岸から流心方向へアップクロスかダウンクロスにキャストして、リトリーブしながらミノーの姿勢や動きを想像しながら探るものです。
アユイングは川に立ち込んで、川下へキャストしステイさせるそうです。リトリーブによってミノーは水流を受けアクションするのではなく、川の流れを受けてアクションし、さらにボトム付近にいる必要があります。
動きを想像できない者が、どのシーバス用ミノーが流用できるかなど分かる筈がありません。ここはやはり、アユイングの専用のミノーを購入して勉強させて頂くしかないでしょう。
続いて針です。
鮎釣りの針は長い年月をかけ確立された技の結晶の様です。サイズやハリスの太さは本を参考にして購入する事にします。
タモは渓流釣りの物を使います。鮎ダモは直径が40~50センチ程あって抜き上げた鮎を空中でキャッチする様に使用されます次々と空中キャッチするくらい釣れるようになってからでも遅くはないでしょう。
鮎ベルトはタモを挿す為に必要ですが、ウエーダーのベルトに挿せば事足ります。
ひき舟は釣れた鮎を入れる入れ物です。コードで鮎ベルトに繋げます。友釣りならば釣れた鮎をオトリに交換するので必須のアイテムですが、アユイングは必須でもなさそうです。これも入れ掛かり出来る腕になるまで待っても良いでしょう。
最低限必要なものを検討して最終的に購入したものは、アユイング専用ミノー2個、3本いかり針10本を1セット、漁業協同組合の游魚料年券です。さあ、これでアユイングを始める事ができます。
いよいよ6月1日の解禁日を迎えました。
少しばかりの興奮で昨夜はなかなか寝付けませんでした。前日までの雨で川は増水して濁っており、ここで早くも入門書に書いてある通りには行かない事になります。
川の本流の増水は渓流で経験した流れより押される力が強く、思うように歩けません。ポイントと思える場所の上流部に立ちこみたいのですが怖くて進めないのです。
本には「石を釣れ」とありました。「アユが縄張り持っていそうな石を探して攻めなさい」という意味のようですが、水が濁って石など見えないのです。
岸際の足首程度の深さの場所では石が見えましたので、アユが苔を食んだ「ハミ後跡」を見つける事ができました。アユはこの濁った流れの中にいるのでしょう。
なんとか流れが緩く立ち込める場所を探し、水の流れる様子から、なんとなく底に石がありそうな場所へミノーをキャストし、そこにステイさせようとするのですが、なかなかうまく行きません。
ミノーの動きが見える様にチャートバックを選んでいるのですが、濁りが強く位置も動きも分かりません。
ラインが水に入る位置と角度からミノーのおおよその位置は推測できます。ミノーのリップがボトムを叩いている感触もありません。
ロッドの位置を固定してもミノーの位置は少しづつ変わっていきます。これは予想以上に手こずりそうだぞと思いながら、何故だかにやけてしまいます。
先ずはミノーがどう泳いでいるのか知る必要があります。そこで濁りが入っていない事を期待して支流に移動する事にしました。
期待通り支流は増水せず透き通っていました。これでミノーの位置と動きを見る事ができます。
川も歩きやすく狙いの石の川上に立つことができました。早速ミノーをキャストします。キャストと言っても泳ぐミノーが見える距離、10メートルくらいです。
狙いの石の近くにミノーを潜らせてみますが先ほどの本流で感じていた様にやはり左右に動いて安定しません。
ロッドを上下左右に移動させて同じ位置で泳ぐように、なんとかコントロールできるようになりました。
狙いの石、と書きましたが鮎が居ると見立てた訳ではありません。鮎の付く石が未だどんなものか分かっていないからです。狙いの石とはミノーをコントロールする為の目安の石なのでした。
本で読んだ鮎の付く石は磨かれて黒く光って見えるのだそうです。本当に光って見えるのでしょうか?
鮎を追い求める気持ちが、釣り人の目に光って見えるように感じるのでしょう。
鮎にとって良い石は美味しい苔が食べても食べても生えてくる石です。日光の当たり方も水の流れも最高なのででしょう。
その石は川底の一等地です。一等地には力を持った強く大きいアユが付き、その一等地の主人が釣り上げられても入居者が次から次へと入るので、一等地を知った釣り人は良い思いができます。
その一等地の石は何色なのでしょう?苔が生え、歯ブラシのような鮎の歯で磨かれた石は黒く輝いているそうです。
しかし川はどこも同じ石が転がっている訳ではありません。石の種類が異なれば磨かれた石の色は変わります。つまり『川に寄って違う』のです。
では、初心者は何を頼りに探せば良いのでしょうか?
ここで川の中の石をよく観察してみました。川のあちらこちらに食み跡がついた石が転がっています。色々拾って見た所、この川では黒い石に食み跡が多い事が分かりました。
流れが緩い場所の黒い石の表面は苔が成長しすぎてやや緑色になっていました。ここまで伸びてしまったものはどうやら食べないようです。
流れが速い所は白泡が立っていたり水面が荒れているので食み跡を見る事はできませんが、これまで拾って見た石を思い返すと速い流れの中に白っぽい所と黒っぽい所がある事が分かりました。
未だ釣れてもいませんので確証はありませんが、黒っぽくみえる所を狙ってみた方が良さそうです。
鮎は苔を食べて縄張りを守っています。つまり川の底付近にいる事になります。
入門書には「ミノーのリップがボトムを叩く感触が手元に伝わる事を確認する事」と記されていました。
狙った場所近くでミノーをステイさせる事は出来るようになりましたがボトムを叩いている感触が未だありません。
ロッドを寝かせてみるとリップに水を強く受けるので深く潜り、ボトムを叩く様になりました。
川の底は表面よりも流速が遅いので潜る力が弱まります。つまり攻める場所を変える度に流速と水深が変わるのでボトムを叩くようになるロッドの角度が少しづつ違います。
先ほどの左右への揺れを抑える修正と、ボトムを叩くようになる角度調整をする事で狙いの石の近くでボトムを叩きながらステイさせる事ができるようになりました。
少し釣り下ってみました。
魚は上流を向いて泳いでいますから、渓流魚を釣るときは魚の背後から気付かれないように近づくため、下流から上流へ釣り上がるのが通常です。
アユイングは立ち位置から下流方向を釣るので上流から下流へ釣り下る事になります。
魚達には気付かれ易くなると思います。キャスト距離は10メートル程度、気付かれない訳がありません。
それとも縄張りを守る性質の方が強いのでしょうか?不安を覚えながら下流へなるべく静かに移動します。
目の前の緩い流れの瀬に10匹程度のアユの群れが見えました。
「群れ?、鮎じゃないのか?」
と、疑いましたが姿は鮎に見えます。
鮎の群れの向こう側へミノーをキャストし、群れの近くまでリトリーブしステイする様にコントロールします。
ロッドの角度を調整しミノーのリップがボトムを叩く様に調節します。
「さぁいつでもどうぞ」
と、いう気持ちで待ちました。
ところがどうでしょう鮎はミノーに体当たりするどころか、群れの一員かの様に、一緒に泳いでいるではありませんか。
そして少しづつ群れのまま離れていきます。
「これは一体・・・?」
何度か試しましたが、結果は同じでした。さらに釣り下って別の群れも見つけましたがミノーへの体当たりはありませんでした。
支流の上流部へ車で大きく移動もしてみましたが、そこではアユの姿もハミ跡すら見つける事ができませんでした。
後に知る事になりますが、今年はそのエリアへの放流は行なっておらず、下流には堰があるので遡上もしてこないと言う訳です。
アユの姿もハミ跡もない筈です。情報収集を怠ってはいけないと痛感します。
この日は多くの事を学び、大いに前進しましたが、群れた鮎をどうするか、分からないままでした。
~第2話へ続く~