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「夏の記憶」

※本コラムは、2020/12/25に株式会社ジャストのコーポレートサイトへ投稿されたコラムの再掲となります。


私は友人の親が花火職人という縁で、高校から大学を卒業するまで夏季限定で花火のアルバイトをしていた。

夏休み期間中の週末には花火大会がいくつも重なるから、平日は花火大会の準備、土日は打ち上げといったサイクルで、1ヶ月間ぐらい休み無く朝から晩まで働き詰めるのである。

現在の花火の打ち上げ方の主流は電気点火(遠隔操作でボタンをポチる)なのだが、私がアルバイトしていた時代には「早打ち」(はやうち)という打ち上げ方法も存在していた。
「早打ち」とは、花火玉に取っ手(持ち手)と打ち上げ用の火薬(発射薬はっしゃやくと呼ぶ)をくっつけたものを、打ち上げ筒の中に連続して入れていく打ち上げ方法である。 打ち上げ筒の底には真っ赤に焼いた鉄(やきがね)を入れておき、花火玉が筒底に落ちた瞬間に発射薬が爆発して上空へと打ちあがり、それと同時に花火玉の導火線へ着火して花火玉が開く仕組みとなっている。
※花火玉が開くタイミングは、最も高い位置に上がった 瞬間に破裂するように導火線の長さを調整している。
この打ち上げ方は基本的に打ち手と花火玉を渡す人との2人1組で行われ、1回で打ち上げる玉の数は、花火玉の大きさによって異なるが、直径5寸の大きさで2~30発程度連続して打ち上げるのである。

花火玉を落として発射されるまでの時間は、花火玉を1.3mぐらいの高さから落とす時間とほぼ同じなので0.5秒ぐらい。
ようするに、花火玉から手を離して0.5秒以内に筒から手を引っ込めないと、打ち上げられた玉が手に当たって大怪我をするし、超至近距離から打ち上る爆音に耐えなければならない。

ビビって腰が引けたりすると手元が狂い、花火玉の取っ手が打ち上げ筒の中でつっかえたり、発射薬を筒口(つつくち※打ち上げ筒の先端)にぶつけてしまったりと、かえって事故を起こす可能性が高くなる。むしろ、筒口に花火玉の半分ぐらいまで突っ込んだ後、指先で筒底に向かって押し込むぐらいのほうが安全なのである。
とにかく危険がいっぱいで、打ち上げ場所(地上)に風が吹いていない場合は、打ち上げた花火玉の発射薬が火の粉となって真上からボトボトと降り注いでくる。
そんな時は次に打ち上げる玉に引火しないよう自分の体を盾にして、火の粉から守るのであるが、ヘルメットと木綿製の半天(7分丈だから手首から先が丸出し)という伝統的なスタイルであるから、防火装備としては心許ないのである。
このようにかなり危険な方法のため今ではほとんど見る機会がない。

私はこの「早打ち」を何度か経験させてもらったことがあるのだけれども、初めて打ち上げた時の記憶は残っていない。きっとすごい緊張と恐怖を感じながら無我夢中でこなしていたからであろう。けれども、ひとつのミスが重大な事故に直結し、我が身や仲間の身を危険に晒してしまう可能性があることは肌身で感じていたに違いない。

火薬を扱う仕事上、誤魔化しや手抜きは許されない。
職人でもアルバイトであっても危険は平等であるから、常に緊張感を持つようになったし、自分に対して厳しくあろうとする考えが習慣化するようになった。また、多感な時期に様々な人と接することで、仕事に向き合う姿勢、働くことの厳しさ、面白さ、協力しあう大切さなど多くのものを教わり、私の人格形成にも大きな影響を受けた。

花火のアルバイトを始めてから20年以上経つが、今でも年に一度は花火屋に顔を出すようにしている。昔お世話になった人たちや旧知の仲間に再会できることが楽しみなのではあるが、「自分を律する」時間を作りにいくことが目的でもある。
歳を重ねるにつれて怒られる機会が減っていき、気づかぬうちに慢心している自分の背筋を伸ばしにいくのである。職人達の顔をみると学生時代の思い出が蘇り、忘れかけていた謙虚さを思い出させてくれるのである。

調査診断事業部
川田 嘉明

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