
スマカンを開発したジャストが考える下水道管点検のこれから
先日、埼玉県八潮市で発生した大規模な道路陥没事故は、地下に埋設された下水道管の破損が原因と見られています。
事故現場では救出活動が続いており、現在も運転手の方々をはじめ、被害に遭われた皆様に心よりお見舞い申し上げるとともに、一刻も早い救出と安全な復旧が実現されることを切に祈念しております。
この出来事は、私たちの生活基盤を支える下水道の老朽化問題を改めて浮き彫りにしました。
ジャストでは、下水道管の維持管理における先端技術の活用を通じ、事故を未然に防ぐ「予防保全」の実現を目指しています。
事故の背景と社会的課題
国土交通省の発表によると、令和4年度末時点で全国の下水道管の総延長は49万kmに達しており、下水道管の標準耐用年数である50年を超える管渠の延長は現時点で約3万km(総延長の7%)にもなります。
20年後には約20万kmに達し、総延長の40%…半数近くが標準耐用年数を超える見込みです。
また、下水道管渠の損傷に起因した道路陥没件数は令和4年度では約2,600件に達し、単純計算で毎日7件もの陥没事故が発生している状況です。
このような背景の中、従来の「壊れてから直す」対応ではなく、劣化や異常を早期に発見し、事前に補修を行う「予防保全」の重要性が高まっています。
【出典】:https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/crd_sewerage_tk_000135.html
下水道管点検の現状と課題
日本の下水道管は高度経済成長期に整備されたものが多く老朽化が進行しています。下水道管の老朽化が進むと、以下のような問題が発生します。
管の破損やひび割れ
→ 地盤沈下や陥没を引き起こす原因に接合部のズレ
→ 水漏れや土砂の流入を招く異物の堆積
→ 排水機能の低下
こうした異状を早期発見することは陥没事故の発生を事前に防ぐ「予防保全」に繋がります。その為には定期的な点検が不可欠であり、下水道法に基づき下水道管理者に対し、5年に1回以上の定期点検が義務付けられています。しかし、ここに大きな課題があります。
従来の点検方法(直視・側視式調査)の課題
従来の点検方法は、マンホールから人が下水道管内部に入り目視で確認する方法や、自走式カメラを用いて映像を見ながら目視検査を行う方法が主流でした。しかし、これらの方法は作業時間が長く、狭い管内での作業に伴う硫化水素の発生など安全リスクも内包しています。また、目視による検査では見落としが発生する恐れがあります。そのため、安全で効率的な点検手法が求められています。

ジャストの取り組みと下水道管点検アプリ『スマカン』
このような社会的背景を受け、ジャストでは下水道管渠の点検・調査を担うのではなく、ソフトウェアやAIなど先端技術を活用し、下水道管渠の維持管理の課題解決に向けた研究・開発を、実際に点検を実施している自治体や企業とともに2020年より進めております。



[B-DASHプロジェクト評価結果(令和2年度) - 下水処理研究室/国総研]
https://www.nilim.go.jp/lab/ecg/bdash/result_2020(r0306).htm
[下水管渠調査を効率化するソフトウェアの開発]
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsceim/1/1/1_356/_article/-char/ja/
そして、この取組の一環として、下水道管点検業務の効率化についてより注力すべき課題と認識し、下水道管点検を効率化するためのアプリケーション「スマカン(スマート管内調査システム)」の開発に着手いたしました。
【下水管DX スマカン】
https://www.just-ltd.co.jp/project/smakan
「スマカン」は、自走式の広角展開カメラによる動画撮影+展開図化 によって、下水道管の状態を迅速に把握できる技術です。従来の方法と比べ、以下のようなメリットがあります。
広角展開式カメラ調査(展開図化式TVカメラ調査)のメリット
長距離をより短時間で点検
→ 点検コストの削減展開図およびAIによる画像解析で異常を自動検出
→ 見落としリスクの低減遠隔操作で安全に点検
→ 作業員の負担軽減
特に、従来の点検手法では見逃しやすかった軽微なひび割れやズレを、スマカンは画像解析によって捉えることができます。早期に異常を発見し、適切な補修を行うことで、大規模な事故を未然に防ぐことが可能になります。

そして「スマカン」では、下水道管点検を行っている企業様へ向け、効率化に繋がる機能開発や使いやすい操作画面を提供しています。
これまでの点検で用いられていたアプリケーションでは、現場で撮影した動画と急いで記入した野帳を確認しながら損傷位置等の損傷情報を一つ一つ手作業で入力するのが一般的で、かなりの作業時間がかかっていました。報告書作成でも損傷個所の画像を手作業で張り付けるなど、かなりの手間と時間が必要でした。
「スマカン」の主な機能とメリット
上展開・下展開を指定できる動画と連動した展開図
損傷位置をワンクリックで自動入力
損傷箇所の画像を自動で入力された報告書出力
従来、現場で撮影した動画や手書きの記録をもとに損傷位置の入力や報告書作成が行われ、膨大な工数が必要とされていました。「スマカン」はこれらの作業を自動化し、効率的かつ正確な点検作業と作業工数の大幅な軽減を実現しています。さらに、今後はスクリーニング調査への応用など、AI活用によるさらなる技術展開が期待されています。


これからの維持管理「ウォーターPPP」における効率化への期待
下水道の維持管理は、今後 「ウォーターPPP(水インフラの民間管理)」へと移行する流れが加速しています。
【参考】:[第33回 下水道における新たなPPP/PFI事業の促進に向けた検討会(PPP/PFI検討会)]
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/content/001617674.pdf
令和9年には全国的に水道・下水道事業のPPP化が進むと予測されています。ウォーターPPPにおいては、「成果報酬型」の維持管理モデルが主流になる可能性があるため、、コストを抑えつつ効率的な維持管理手法を導入できる企業が市場で優位に立つことが想定されます。つまり、下水道の健全性を保ち、事故を未然に防ぐことで、企業の利益にもつながる構造になっていくのです。
「スマカン」は、少ない人員でも迅速かつ正確に下水道管の状態を把握できるため、ウォーターPPPにおいて民間事業者がコストを抑えながら高品質な点検を実施できるツール として、大いに期待されています。
この点において、「スマカン」の導入は、PPP事業者の収益向上に直結する重要な技術 であると言えます。
社会全体でインフラの維持管理を考える時代へ
八潮市での事故をきっかけに、今後さらに下水道を含むインフラの維持管理が社会的に注目されるでしょう。そのなかで、「壊れてから直す」から「壊れる前に防ぐ」へ の発想転換が求められています。
「スマカン」は、下水道管の劣化を「見える化」し、事故を未然に防ぐための強力なアプリケーションです。
これからのウォーターPPP時代において、「スマカン」が果たす役割はさらに大きくなると考え、ジャストでは社会インフラの未来を守るため、「スマカン」の開発・普及に取り組んでまいります。