【小説】放課後の美術室 Ⅴ
僕の美術館にきてください。
小説家の小川泉からメールがきた。
そこにはきっとラベンダーの絵があるはずだ。
「んで? 行くの? 行かないの?」
意地悪な顔つきで綾香が聞いた。
「行く…と言いたいところだけど場所がわからない」
「そうだよね。いつ、どこで、だれが、どうしたって小説家の基本だよね」
さわら駅の待合室で2人、近くのパン屋で買った新作のフルーツサンドを食べる。
ここではエアコンがいつも効いているし、宿題だってできる。
すると、私たちの話をまるでどこかで聞いてるようなタイミングで小川泉からメールがきた。
「こわっ…」
綾香が私に抱きつく。
メールには美術館の住所が書かれていた。
それは市内からバスで20分程の近い距離だった。
美術館があるという緑色に塗られた古めかしい雑居ビルは壁がツタの葉でおおわれていた。最上階のベランダには人の気配がなく、ドバトが巣作りしている。
ミシミシと音がする階段の手すりは今にも根こそぎ崩れてしまいそうだった。踊り場は人の足跡ですっかり色褪せている。
メールの住所を何度も見直したけれどこのビルに間違いない。
「あった!ここだよ美穂、3階の…」
「結婚相談所─?」
古びた鉄の厚いドアには結婚相談所と書いてあるホワイトボードが掛けられていた。
「えっと…『AIマッチングを取り入れたナウい結婚相談所、あなたの味方コンシェルジュが夢かなえます。スッチーウハウハ大歓迎!』…だって!」
「ナウいって?」
「新しいってことよ」
綾香は昔のことになぜかくわしい。
騒いでいる私たちに気がついたのかスキンヘッドの男性が中から出てきた。
年は50代前半といったところか。
「ふん、なんだガキか。ここは結婚相談所だよ。もう少し大人になってからおいで」
「アタシたち絵をさがしいるんです。このビルの3階にあるはずなんです。知りませんか?」
「絵?あぁ、お花畑の絵?それなら中に…」
「失礼します」綾香が突入する。
私はスキンヘッドの男性に軽く会釈して綾香についていった。
「あったーっ!あったよ!美穂、修策のラベンダーの絵だよ!」
綾香が叫んだ。私たちは絵の前で抱き合ってピョンピョン跳ねて回った。