メルカリ
メルカリのCSがネガティブな意味で話題になっている。出品者か購入者かさておき、「返品すり替え問題」として本記事では扱う。また、後程きちんと説明するが、私自身メルカリというサービスならびに運営会社のことが好きでも嫌いでもない。メルカリを両手で足りるほどではあるものの利用経験があり、その利便性に関してはとても評価している。
一方で過去にはまさかの”お金”が出品されていたことがあったり、昔から全力2階建では「フリマアプリ界の西成」と揶揄されるほどユーザーのモラルやリテラシーがあらゆる点で批判されている。
私も、それこそ一万円札を折り紙のように折り、出来上がった”作品”を”魚のオブジェ”として出品する人が存在することに絶句した。誰かにとって不要なものを他の誰かが必要としており、そしてそれらは定価より安く売買できる。出品可能なアイテムの幅は広い(当然紙幣などは出品不可)。この時点でリスクの香りが鼻腔で充満しているのだが、今問題になっているのはフリマというビジネスモデルそのものが孕むリスクではなく、メルカリのシステムの欠陥だと捉えている。
メルカリの”すり替え”被害
メルカリは購入者に非常に優しいシステムになっている。購入後のキャンセルや返品なども簡単。しかし、そのシステムの陥穽をついた”すり替え”詐欺が起きている。
メルカリに出品した商品を購入者が何らかの理由で返品要請を出す。それ自体は全く問題はない。しかし出品した商品が偽物(もしくは別物)にすり替えられて返品されるという被害が起きている。昨年の2023年は、高級ブランドのDiorを出品した方が”偽物だ”と購入者からクレームとともに、返品要請を受け取った。しかし出品者曰く、正規店で購入したもののため偽物であるはずがないとのことで、すり替え詐欺を疑い、一連の流れをXで投稿していた。
これは氷山の一角で、トレーディングカードなどリセールバリューが付きやすく偽物が比較的用意しやすいものは標的になりやすい。そしてこのすり替え被害に対するメルカリの対応が個人的に全く賛同できないものとなっている。
メルカリの対応の話に入る前に規約や取組の話に入る。
▸返品不可は規約違反
まず、返品不可、ノークレーム、ノーリターンなどの記載はメルカリの利用規約違反だ。
真偽は定かではないが、メルカリでは出品者が返品不可などを記載した場合、取引キャンセルもしくは利用制限が課せられる可能性があることを指摘する声もあり、利用規約上の禁止行為であることを考えると不思議でもない。
返品すり替え詐欺が話題になっている今、この返品不可がいかに不当で不公平かを論じる人も増えているが、そもそも折った1万円札を魚のオブジェとして販売するような出品者がいるプラットフォームなので、”安心して出品されたアイテムを購入できる環境”整備は当然の話だ。手元に届いたアイテムと掲載写真が何らかの形で違う可能性は、フリマアプリだけでなく大手ECにもあり、写真と実物が許容範囲を超えて違うなんてことがまかり通ってしまえば、そこでの売買はいずれ凋落の一途を辿る。返品不可を禁止にするのは不思議なことでもなんでもないのではないだろうか。
しかし、返品されたものがすり替えられたものであることを証明することは非常に難しい。プロテクションタグの話も出ているが、”起動しない”ことを理由に返品されたPS4を確認したところ、ハードディスクだけ抜かれて返品されていたという投稿もあり、プロテクションタグですり替えを防止できるのはほんの一部だ。
▸出品アイテムの鑑定サービス
メルカリでは一部の商品に限るものの、”あんしん鑑定サービス”を行っている。購入したアイテムを出品者が鑑定業者に送り、正規品か否かが鑑定された後に購入者が受け取ることが出来る。本サービスは有料のオプションであり、出品者があんしん鑑定の利用可否を設定後、利用可の場合は購入者が本サービスを利用することが出来る。鑑定手数料は購入者負担だ。
ちなみに、鑑定基準・可能条件を満たさない場合、商品は”出品者に着払い”で返送される。
他の規約や取組に関してまだまだ深堀出来るが、あまりにも長文になるので割愛する。前述の規約と取組を見れば、メルカリは「購入者優位」なプラットフォームだと判断しても自然のように感じる。
そしてそれはこのプラットフォームを成立させるために当然のことだったのではないだろうか。
しかし、今ここで問題になっているのが、この購入者優位のプラットフォーム上で悪意のある購入者が増えており、出品者が被害に遭っているということだ。
両者が魑魅魍魎なのだ。
モラルが低いユーザーが集まった先
紙幣、チャージされたSuica、業者や専門家以外が取り扱うべきではない代物、なんとなく盗難品に見えるアイテムなど、メルカリでは出品者のモラルの低さが話題になることが多かった。しかし理不尽な値下げ交渉や失礼極まりないメッセージを送る購入希望者も同じかそれ以上に話題になることも多く、最初は”悪意のある出品者が多い”という図から”癖のある購入希望者”、そしてシステムの欠陥を逆手に”詐欺行為に手を染めようとする購入者”まで出てきてしまった。
出品者、購入者という立場関係なく、モラルの低いユーザーが集まった結果”正直者がバカを見る”環境が出来上がっている。
でもさ…。モラルが低いユーザーが集まったプラットフォームって、立場関係なくモラルが低いユーザーが跋扈しません?(突然普段の口調)
そしてメルカリにとっては、出品者も購入者も本来同じように大切なユーザーのはず。出品者が多いからこそ、出品されているアイテムのバラエティが横にも縦にも広がり、購入者目線から見て価値が高くなる。そして購入者がいるからこそ、初めてメルカリに収益が発生する。どちらもとても大切なユーザーであることは間違いない。
オペレーション上、出品者と購入者を分けて考えることは当然だ。しかし、ユーザーの質でトラブルが発生した場合、どちらかを守るのではなく、もう片方も守る、そして両方の立場を守ることを考えないといけない。なぜなら、仮に出品者・購入者という二つの立場がプラットフォーム上にあったとして、「出品者のみモラルが低い・悪意がある。購入者がモラルやリテラシーが高い」なんてことはなかなか起きないからだ。
Apple to Appleではないが、サービスも料理も悪い飲食店に品行方正な美食家が来るわけがない。来たとしても一度きりではないだろうか。
以上を踏まえたうえで、メルカリの対応の話に移る。
警察と弁護士の相談よろしくね!
さて、すり替え詐欺に遭った被害者は当然メルカリのCSへ相談する。しかし、すり替えに遭ったことを証明するのは困難だ。そしてこのようなトラブルがあった場合、CSが取引自体をキャンセルすることが少なくないようなのだが、取引がキャンセルされると出品者-購入者間で何らかのトラブルがあったことが外野から分からない。結果的に二次被害が起きやすくもなっている。
メルカリ側も出品者を突き放したいわけではないだろうが、どのような状態で出品されたのかが分かる写真が手元にあったとしても、前述のPS4のケースを知ると写真が全てを解決するとは思えない。写真がないのであれば尚更、メルカリ側は証明できないことに対して積極的に補填しようと思わないだろう。
しかし、一部ユーザーのモラル問題、出品者・購入者両方が重要であるビジネスモデル、そして購入者優位環境という要素が絡み合い、悪意のないユーザーが被害に遭っている。プラットフォームの設計ミスともいえる中、被害に遭ったかもしれないユーザーに対して「事務局はこれ以上のサポートが出来ないと判断したので、取引はキャンセルいたしました。トラブルに関しては、警察や弁護士を含む公的機関へご相談ください(大意)」と突き放すような対応をするのはいかがなものだろうか。
しかも更なる問い合わせがあった場合、「警察や弁護士から照会があった場合、捜査協力という形での対応を検討いたします。」と、CSは対応するようだ。
いや、検討すんなよ!!!照会出てるってもうそれなりに警察や裁判所からゴーサイン出てるからなんだし、100歩譲っても「相手方に意見照会する」ぐらいでは!?(これはこれで問題あるだろうけど)
そして昨年同様にXで大騒ぎし、炎上すると補填。2023年のDiorの件もそうだが、今回も炎上後にメルカリは被害に遭ったとされる出品者は炎上後補填されたようだ。
目の前のユーザーではなく世間体を重視するような対応に見えるため、本来はあまり推奨されない対応だ。
メルカリのブランディング
本棚を漁っていると、大切に保管しているHBRがあった。メルカリの人事・採用・組織の話をしているものだ。冒頭にも書いた通り私はメルカリのことは好きでもないが嫌いでもない。しかし、メルカリの組織戦略やPRに関してはとても参考にしていた部分があった。
それなのに決して好きになれなかった理由に、コーポレートとしてのメルカリとサービス提供者としてのメルカリが私の中で並外れて乖離している…というのがある。
愚直にメルカリのコーポレートブランディングは非常に上手だと思う。実際に労働環境もいいのだろう。社外の人間との交流推進、心理的安全性構築のためのピアボーナス、自由な1on1設定、merci boxと名付けられた斬新な福利厚生。ビジネスの成長やその軌跡もそうだが、メルカリはこのような給与以外の労働環境や待遇の取り組みがPRのネタになり、多くのパブリシティを得ている。この労働環境や組織戦略や開発というタッチポイントで、コーポレートとしてのメルカリはとてもポジティブに多くの人のメンタルアベイラビリティを確保している気がする。
プラットフォームとしては課題も多いが、”働く場所”、”関わる企業”としてメルカリに悪印象を持っている方はどれほどいるだろうか。少ないとは思わないが、これほど昔から”フリマアプリの西成”・”ネットの泥棒市”と卑下されていても、メルカリのコーポレートPRの場面でプラットフォームの問題を切り口に石を投げる人は多くない。(礫はあるかもね)
メルカリの二つの顔を見れば見るほど、今までは同社に対して好き・嫌いという感情が減少し、”好きでも嫌いでもない”というスポットに落ち着いていた。しかし今はとても不思議な感情に包囲されている。これほどまでに社員への敬意をネタにパブリシティを得ていたメルカリが、このようなすり替え詐欺が横行するのを許してしまうほどユーザーへの敬意が欠如している(ように感じる)
未熟で世間知らずの私が、企業が描いた外面を疑いもせず信じ、年を重ねたタイミングでその企業の仮面の下に潜む闇を初めて直視した…そんな複雑な感情が今彷彿している。
これ以上執筆すると後味が悪く、胃もたれがするポエムになりそうなのでこれ以上何も書かないが、私の一つの(無駄に長い)備忘録として今の考え・そして感情をここに書き留めておく。