深夜の寿司
昔住んでいた家の
大きい道路の少し向こう側に
小さなお寿司屋さんがあった。
お父さんとお母さんは私たちが寝たらこっそりと自転車に二人乗りをしてそのお寿司屋さんに月に何度か出かけていた。らしい。
小学校の高学年ぐらいから、夜、目が覚めると、お父さんとお母さんがいないことに気が付く。怖くなってお母さんに電話すると「お寿司屋さんにいるからおいで」と誘われた。なんだか夜中に外食なんて、悪いことをするみたいで、妹を起こさないようにそろりと自転車に乗って2分ほど先のお寿司屋さんに向かった。
折はたまにお父さんが買ってきてくれることがあったお寿司屋さんであったが、お店に入るのは初めてで、やぐら寿司と書かれたのれんをくぐって扉を開くのにすごく緊張した覚えがある。
一枚板のカウンターがきれいな回らないお寿司やさん。やさしいおじいさんがあいよと握ってカウンターに寿司を置いていく。お母さんが「トロをたべた」と私に自慢した。お父さんが「食ってみろ」と注文してくれた。
あいよとカウンターに置かれた光り輝くトロは「くるくる寿司」でみるような四角いお寿司じゃなくてなんだかシュッとしてた。
板の向こう側にちょろちょろと流れる水で手をすすぎ、一口でいただく。醤油はたっぷりと付けたが、脂にはじかれてちょうどいい具合になる。トロはあっという間に溶けてトロの香りだけが残った。
「1000円。」
お母さんが耳元で言った。
1貫で1000円もするという。当時小学生でお小遣いももらっていなかった私は1000円という金額に驚き、寿司じゃなくてお金が欲しいとも思った。
そしてとっさに飲み込みかけていたトロの香りをそうはさせまいと再び口の中で遊ばせた。
それから私は、お父さんとお母さんが夜中出かけると飛び起きてしつこく電話をかけるという超迷惑な子どもになってしまった。一度あの最高の夜遊びを知ってしまったら戻れはしない。私は悪くない。
中学生頃になると、夜中までやっているお昼はケーキ屋、夜はバーになるお店や、ビリヤード、カラオケバーなど大人が行くお店にもたくさん連れて行ってもらえるようになった。今考えると、3人の子どもを連れて、あんな場所で夜中まで遊ぶなんて、はちゃめちゃな両親である。
お父さんは昔レコードバーをやっていて、毎晩のようにお母さんと夜遊びしていたらしい。つまるところ、私はもう夜遊びのサラブレッドなのだ。
私が20歳をすぎてたまに夜中の2時頃帰ると遅いよ!と怒ったが、お母さんのほうが毎日遊んでたじゃん!というと「ぐぬぬ」と笑った。
今は、両親も夜中に遊び歩くなんてしないし21時には寝てしまうが、たまにやぐらの寿司折を買って帰るとなつかしいなあと言いながらみんなでたべる。あのやさしい「あいよ」のじいちゃんは今は立ってなくて、息子が握っているが、やさしいにぎりはそのまま。
お母さんが一番好きな曲。私も小さい時からずっと聞いてて大好き。
PVが最高じゃん。
私も夜中に寿司を食べに連れ出してほしいなあと、このノートに綴って旦那に圧をかけてみようと思う。
お寿司、たべたいなあ。
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やぐら寿司
084-923-0138
広島県福山市紅葉町4-1
https://tabelog.com/hiroshima/A3403/A340308/34005102/