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感動の再会…ではない?ヨクサル&スナフキン親子の秘密
ムーミン界屈指の人気親子
ムーミンキャラクターの中で、非常に高い人気を誇るヨクサル&スナフキン親子。
原作において彼らが一緒に描かれているのは、「ムーミンパパの思い出」の終盤のみ。しかも、本編中に会話ややり取りの描写はなく、ヨクサルとハグをして微笑むスナフキンが描かれるのみ。ヨクサルの表情は描かれていない。
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それでも――いやだからこそ読者は、2人が「共に過ごした時間」を夢想し、「幼き日の子と父の」麗しい日常や、「感動の再会」に涙する親子の姿を、自らの絵や文章の中に刻むのである。
そんなファンが多い中、豎林檎が描いた「スナフキンが生まれたばかりの頃」の出来事を妄想した、ムーミンコミックス風二次創作がこちら↓
ヨクサルとミムラ、ときどきムーミン(パパ)
— 豎林檎 (@juringo_applest) April 13, 2024
※左から右
※続かない pic.twitter.com/adGvZZeNOR
はい。過ごした日々もへったくれもありません。自分に息子がいることすら知らず、気づいたときには息子は既に行方不明。
もちろんこの漫画はただの二次創作であり、「こんなのヨクサルじゃない!😡💢」と思われる方もいるでしょう。
しかし、実はこの漫画、原作童話の設定を踏まえて描いたものなのです。
というわけで今回は、あまり知られていない(?)ヨクサルとスナフキンの関係について、語りたいと思います。
前置き~幻(?)の旧バージョンについて~
本題に入る前に、原作ムーミンシリーズの「改訂」について軽く説明します(ある程度ご存知の方は、次項までスキップしていただいても構いません)。
原作であるスウェーデン語のムーミン童話9冊の内、「ムーミン谷の彗星」、「たのしいムーミン一家」、「ムーミンパパの思い出」、「ムーミン谷の夏まつり」は、作者自身によって時を経た改訂が行われています。
特に、「ムーミン谷の彗星」と「ムーミンパパの思い出」は大幅な加筆・修正がおこなわれ、初版と最終版を比較すると様々な違いが見られます。
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「ムーミン谷の彗星」と「ムーミンパパの思い出」は、それぞれ下記のタイミングで出版・改訂がおこなわれています。
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Kometjakten/Mumintrollet på kometjakt/Kometen Kommer
Muminpappans bravader- skrivna av honom själv/Muminpappans memoarer
日本で刊行されているムーミン童話シリーズでは、「ムーミン谷の彗星」が第1巻、「ムーミンパパの思い出」が第3巻に位置付けられていますが、いずれも1968年の最終版を翻訳したものです。
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つまり、日本語で「彗星」と「思い出」の旧バージョンを読むことはできないということ。現在では、スウェーデン語の旧バージョンを購入するのも中々難しく、歯がゆい思いをしています。
しかし、ありがたいことに、英語版のムーミンシリーズなら、現在も「彗星」と「思い出」の旧バージョンの翻訳を読むことができます。しかもKindleで!ありがたいことに、スマホがあればいつでもどこでも読めてしまうのです!※英語の1968年版「思い出」もあります。
英語版のムーミンシリーズは、機知に富んでいると言いますか、必ずしもスウェーデン語原書を正確に訳したわけではない、という場面が存在します(お国柄も影響していると思いますが……)。この英語版旧「彗星」と「思い出(手柄話)」が、どこまでスウェーデン語原書に忠実なのかは定かではありません。
とはいえ、少なくとも物語に影響を与えるような意訳はないはずです(トーベ・ヤンソン先生が、そんなことを許すとも思えませんし)。
というわけで、前置きが非常に長くなってしまいましたが、ここからは旧バージョンをベースとした英語版「ムーミン谷の彗星」と「ムーミンパパの手柄話」から、スナフキンとヨクサルの関係を読み取っていきたいと思います。
本題~スナフキンの生い立ち(ネタバレ注意)~
1946年のスウェーデン語原書「Kometjakten」を英訳した「Comet in Moominland」。
その中で、ムーミンとスナフキンのこんなやり取りがあります。
「おかあさんはいないの?」
と、ムーミントロールがとても残念そうにたずねました。
「わからない」
スナフキンが答えました。
「ぼくはカゴの中で見つかったんだってさ」
Puffin; New Edition版 (2003/2/27)
p. 99を一部翻訳
そして、1950年の「Muminpappans bravader」を英訳した「The Exploits Moominpappa」では、このような会話があります。
「ぼくのパパは――ヨクサルは、あのミムラのことが大好きだったの?」
突然、スナフキンがたずねました。
「そうだったと思うよ」
ムーミンパパは、少し考えてからそう言いました。
「ぼくのことよりも?」
とスナフキンがききました。
「彼は君と会ったことがないじゃないか」
と、ムーミンパパが、言いました。
Puffin; New Edition版 (2003/2/27)
p. 92を一部翻訳
なんと、スナフキンはヨクサルと会ったことがない=「ムーミンパパの思い出(手柄話)」のラストが初対面だったのです。
さらに初期版(英語版)のムーミンパパの思い出では、ヨクサルはスナフキンに「会ったことがない(he never saw you, you know」ってことに…。
— すろたんき (@sumisumiAll) September 12, 2023
(思えば豎林檎は、こちらの方のツイートをキッカケに、旧バージョンを読もうと決めたのである。ああ懐かしい……出会いに感謝)
しかもスナフキンは、母親のことを「知らない」「自分はカゴの中で見つかった」と述べており、ムーミンパパから話を聞いて、初めて自分の母親がミムラであることを知ります。物心つく前に母と生き別れになった可能性が高いです。
「ちょっと待って」
と、スナフキンが言いました。
「もしかして、ぼくにも、その……ママがいたの?」
「ああ、そうさ。もちろんだとも!」
ムーミンパパが叫びました。
「ちょうど今、言おうとしたんだよ。そうさ。ミムラだよ!」
「それじゃあ、ちびのミイはぼくの姉妹なのか」
スナフキンは不思議そうに言いました。
Puffin; New Edition版 (2003/2/27)
p. 115を一部翻訳
「でもそれって、昔の設定でしょ。今のバージョンにはそんな台詞ないジャン!」と思ったアナタ。
まあ、そうなんですよね。
しかし、完全に「なかったこと」にされている、というわけでもないのです。
というのも……
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https://www.moomin.com/sv/blogg/snusmumrikens-slakttrad/
こちらは、ミムラ族・ヨクサル・スナフキンの公式の家系図。
現在でも公式サイトに掲載されているものですが、そこにはこう書かれています。
“Han hittades i en ash, föräldrarna hittades senare.”
「彼(スナフキン)はケースの中で見つかり、両親は後になって発見された」
もう一度言いますが、この家系図、現在も公式サイトに掲載されています。
このスナフキンが籠の中で見つかったという設定、黒歴史になったのかと思ったら、英語版公式サイトに載ってるトーベヤンソンが書いたスナフキンの家系図にガッツリ「スナフキンは箱から見つかった。両親はあとから見つかった(英語に翻訳されたのを翻訳)」と書かれてんの。https://t.co/1Uifv8BaJ3
— すろたんき (@sumisumiAll) September 11, 2023
(家系図は英語版とスウェーデン語版があります。今回豎林檎はOCR機能でスウェーデン語テキストを読み取りましたが、英語版も同じ内容です)
以上を踏まえて、豎林檎のイラストを再度ご覧ください。しつこい。
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結構合っていると思いませんか?
……いや、そりゃまあ、カゴで見つかった=川に流されたとは限らないですし、息子がいなくなってミムラ(とヨクサル)が何を思ったのかもわかりませんがね。その辺りは妄想です。もちろんリボンも。
あの豪快なミムラのことなので、息子がいなくなってもあまり気にしていないかも(何とかなるだろうの精神で)……
まとめ
今回お伝えしたかったのは、
スナフキンはカゴの中で発見された。
スナフキンは母親のことを知らず、ヨクサルと面識もなかった。
最終版ではこれらの説明は削除されているが、設定としては現在も半ば存在している。
ということ。
旧バージョンを読めば、皆さんのヨクサル&スナフキン親子に対する見方が変わるかも……?
ヨクサル&スナフキン親子以外にも、旧バージョンには現在とは異なる様々な要素が存在していますので、是非読み比べてみてください!
参考文献・Webサイト:
横川浩子、内山さつき、冨原眞弓. ムーミン展THE ART AND THE STORY. 朝日新聞社, 2019, 311p.
ボエル・ヴェスティン. トーベ・ヤンソン 人生、芸術、言葉. 畑中麻紀, 森下圭子訳. フィルムアート社, 2021, 656p.
“Muminpappans memoarer – Förlaget” Moomin Shop. https://shop.moomin.com/products/muminpappans-memoarer-forlaget, (参照2024-05-31) .
Tove Jansson. Comet in Moominland (Moomins Fiction) (English Edition). Elizabeth Portch. Puffin; New Impression版, 2003, 194p.
The Exploits of Moominpappa: Described by Himself (Moomins Fiction) (English Edition) . Thomas Warburton. Puffin; New Impression版, 2003, 156p.
“Snusmumrikens släktträd”. Mumin. 2022-03-02. https://www.moomin.com/sv/blogg/snusmumrikens-slakttrad/#890aa095, (参照2024-05-31) .