【怪談】降車地点
Oさん(仮名)男性、中年のタクシードライバーから聞いたお話。
タクシーを利用すると稀に運転手さんが雑談を始める場合がある。
私は、そういった雑談になった場合は「何か怖いオハナシありますか?」とよく聞く。
その時のOさんという運転手さんは「あまり無いけど」といいながら話してくれた。
「よくある話ですが、とある夜道を行くと幽霊が立っている、それを他の運転手さん達も見ているなんて話は聞きますが私は見たことないですねぇ。」
「ただ一度だけ、幽霊を乗せたことはありますね。」
「まぁ墓場で降りるとか、自分の通夜やってる会場で降りるなんてハナシは聞いたことあるんですがね、私の場合は神社だったんですよ。」
「タクシーに乗せたのは市内の飲み屋街でね。目的地は市外のI神社だったんですよ。わかりますよね?あの有名なI山のトコの。」
「飲み屋街からI神社まで結構あるんでね、大丈夫かと思ったんですよ。」
「乗せた人ですか?初老って感じの金持ちそうな爺さんでしたよ。」
「乗車したときにね、目的地をボソリと呟いてずっとダンマリでしたよ。」
「気味の悪い客だなとは思ったんですよ、生気が無いというかね、まぁ仕事ですから。」
「ただね、よく考えるとI神社って思いっきり山の麓じゃないですか。」
「着いたところで神社も真っ暗ですし。ほんとに目的地が合ってるのかなって。」
「まぁ神社の向かいの土産屋に住んでる人かなとかいろいろ考えまして。まぁいいやって事でとりあえず向かったんですよ。」
「んで着いたんで車停めたらもういないんですよ。」
「チラチラとバックミラー覗いてたんで、ほんと、少し目を離した瞬間に消えてたっていうか(笑)」
「うえ!幽霊乗せちまったぁ!ってね(笑)」
「はっ!と思ってシート調べたんですがね、濡れたりはしてなかったです。」
「いや~ホントおっかなくなっちゃって逃げるように戻りましたよ。」
「でね、後日会社でそのハナシしたんですよ。そしたらね、他にもいたんですよ!I神社まで乗せていったらお客さんが消えたって件!」
「同じ体験された方が数人おりましてね、全く同じ、I神社まで乗せてったって人が何人かいたんですよ。同じくらいの時期に。」
「でもね、お客さんが消えたって体験した他の運転手の話を聞くと、私たちの体験よりかなり前でね、降車地点はS墓地が多かったんですよ。」
「わかりますか、あのS寺町の。」
「私も幽霊が降りるならそこだと思ってたものでね(笑)」
「なのに最近はI神社が多いんですよ。」
「多いというか、昔はS墓地で、最近はI神社ってのが主流みたいですね(笑)」
「消えるお客さんですか?私の場合はさっき言った通り爺様でしたけど、他は老若男女様々でしたね。」
ここまで話を聞かせていただいた私は、幽霊の降車地点にも流行があるのか疑問に思っていた。
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後日、Nさんという女性事務員さんからお話を聞かせていただいた。
20年ほど(?)前に、先に述べた市内の飲み屋街で幽霊が俳諧しているという噂が立ったそうだ。
一見気付かないような、生きてる人間と全く変わらない風体で街中を歩いているそうだ。
その歩いている幽霊というのは初老の男性で、以前この飲み屋街にある飲食店を何店舗か持っているオーナーさんだったようだ。
そのオーナーさんは20年前の噂が立ったその頃よりも更に昔に亡くなっていたそうだ。
なので、飲み屋街の事情に詳しい人たちは「亡くなったオーナーが、死んだ後も経営していた店が気になってさ迷い歩いているのか」なんて噂したそうだ。
その彷徨う幽霊オーナーが生前住んでいたのが、I神社の近くだったそうだ。