【怪談】裏切り者
私が小学校高学年の頃に、亡くなった親戚の叔父さんから聞いたお話。
とてもインパクトが強くハナシ自体は鮮明に覚えているのですが、正直、実話かどうかわからないハナシの為、実話怪談を好む私からすると「う~ん」といったお話ですがよろしければどうぞ。
叔父の知人である女性A子さんから聞いた話だそうだ。
A子さんが10代後半の頃、B美さんという友人がいた。
ある日、B美さんが彼氏を連れてきた。名前をCくんとしておこう。
Cくんはバイクが大好きなライダーで、よくB美さんと二人乗りをして遠出してデートを楽しんでいるとのことだった。
二人はとても仲が良く、特にB美さんはCくんにぞっこんだった。
そんな二人が付き合って1年も経つ頃、なんとA子さんがCくんを寝取ってしまった。
A子さんは、好きになってしまったものはしょうがないと開き直り、色仕掛けにCくんもなびいてしまったものだから二人はこっそりと付き合うことにした。
そんな三角関係が長く続くわけもなく、B美さんにあっさりとバレてしまった。
B美さんは、どちらと別れるのかと詰め寄ったがCくんは「B美と別れてA子と付き合う」とB美さんに別れを告げた。
逆上せ上がっていた彼氏に二股されており、その相手はまさかの親友A子さん、挙げ句Cくんに捨てられてしまったB美さんは、かなりショックだったのだろう、共通の友人が言うには日に日に窶れていったそうだ。
それが原因でかB美さんは引きこもりになって全く外出しなようになったそうだが、A子さんとCくんはどこ吹く風、2人は恋人としての時間をとても楽しんでいた。
それから数ヶ月、風の便りでB美さんが失踪したという話を聞いた。
しかしA子さんは「あっそ」くらいのものでCくんも気に留めている様子は全く無く、2人は変わらず付き合っていた。
B美さんの事もほぼ忘れたある日、A子さんとCくんはツーリングがてら、山を越えた近隣の町までバイクで出かける事にした。
ツーリングデートを楽しみすっかり夜も更け、夜中の山道を二人乗りのバイクで帰路についていた。
車通りや人通りが全くない真っ暗な山道を、Cくんはあまりスピードを出すこともなくA子さんはCくんにしがみ付いて走っていた。
どのくらいの時間が経ったろう、気付くとCくんが頻繁に後ろを振り返っているのがわかった。
A子さんは「何だろう、後続車でも来たかな」くらいに思っていたが、Cくんにしがみ付いてヘルメットまで被っていた為になかなか後方を確認できずにいた。
その間にもCくんがチラチラと何度も振り返りながら、バイクのスピードを徐々に上げていた。
A子さんもさすがにただ事ではないと思いチラッと後ろを確認した。
後続車はいない。
しかし、はるか後方になにやらぼんやり白いモノは見える。
なにぶん、あたりは真っ暗なためハッキリとは見えないが、その白いモノは微妙に光っているようにも見えた。
A子さんは「他のバイクに煽られてるのかな?」と感じたそうだが、A子さんに出来る事は無いため、ただただCくんにひたすらしがみ付いていた。
そんなのが数分続いたが、ある時、バイクが急に左右へ大きく揺れた。
A子さんは何事かとCくんに目をやると、彼は右側を見てなにやら驚いているようだった。
「煽ってたバイクがすぐ斜め後ろまで来ちゃったかな」とA子さんは思ったそうだ。
A子さんは、煽ってきたバイクがどんなヤツなのか見ようと斜め後ろに目をやった。
すると、Cくんのバイクのすぐ斜め後ろまで迫っていたモノはそもそもバイクではなかった。
人だった。
それは白髪の女で、目を血走らせて見開き、口を大きく歪ませて歯を食いしばって、まるで鬼のような形相でコチラを睨みつけながら、ものすごい早さで両手足をバタつかせ、四つん這いで走っていた。
服が、真っ白な白装束だったのを記憶している。
A子さんは目の前のありえない光景に絶叫しCくんに力一杯しがみ付いた。
バイクのエンジン音で聞こえなかったが、Cくんも絶叫しパニックに陥ってていた様子だった。
バイクはスピードを上げつつも蛇行運転していたが、その女のような四つん這いの化け物は全くの無音でバイクに併走していた。
そしてCくんの真横に並ぶと
「 裏 切 り 者 !」
と大きな口をさらに大きく開いて、直接頭に響くような声で叫んだ。
A子さんはその声にもう一度恐怖の叫び声を挙げた。
事故ってしまうと考えたのかCくんはバイクを減速させたが、四つん這いの化け物はそれより早く減速し、後方の真っ暗な山道に消えていった。
バイクが止まると、Cくんは「あああああ」と恐怖とも不安ともつかないうなり声を挙げてヘルメットを脱いだ。
A子さんはバイクから降り、Cくんの前に回り込むと「ねぇ!今の何!?おばけ!?」と問いかけた。
するとCくんは「B美だった…今のバケモン…B美だった…」と呟きながらしゃがみ込んでガタガタと震えていた。
一時間近くもそうしていただろうか、Cくんは「とりあえず帰ろう…」と言うとまたバイクに跨り、よろよろ運転しながらA子さんを何とか家まで送ってくれた。
A子さんは恐怖でいてもたってもいられず、夜中だったがCくんが帰宅した頃合いを見計らって電話を掛けてみた。
するとCくんが怯えた様子で電話をとった。
「なぁ…見ただろ…あれB美だよ…
絶対おれを恨んでる…怖いよ…」
と繰り返した。
しかしA子さんにはわからなかった。
さっき見た化け物はB美に似ても似つかなかったからだ。
B実は少しふくよかで低身長だったし、髪も茶髪、顔もおっとり系のたあぬき顔といった風体だったが、さきほどの化け物はガリガリにやせ細っていて異様に長い手足、髪は白髪、顔に至っては目をひん剥いて大きな口でとても彫りが深いように見えた。
その事を伝えたが、Cくんは「なんでわからないんだ…どうみてもB美だったろ…あれはB美だった…おれを恨んでるんだ…」と電話口で繰り返していた。
今日はとりあえずゆっくり休んでねと電話を切ろうとするとCくんは
「おれはもうバイクには絶対乗らない…あの山も、もう絶対行かない…」
と力なく言うと電話を切った。
翌朝、気になったA子さんはCくんに何度か電話を掛けたが繋がらず、それどころかCくんと連絡が全く連絡が付かなくなってしまった。
それから2,3日後、Cくんが亡くなったと聞かされた。
あの、例の化け物に出会った山で、バイクの単独事故だったそうだ。
もう行かないと言った山で、もう乗らないと言ったバイクでの事故。
A子さんはCくんの事故も悲しかったが、それ以上に恐怖を感じた。
あの「裏切り者!」という叫びは私にも言っていた。
このまま地元にいたら殺される、そう感じたA子さんはCくんの葬式にも出ず着の身着のまま知り合いを頼ってすぐに地元を離れた。
当時叔父さんが地元から離れた土地で働いていたときに偶然A子さんと再会してこの話を聞いたそうだ。
A子さんは地元には何があっても帰りたくないし、地元に関わることには一切触れたくないと、叔父さんにもそれっきり会うことは無かったそうだ。
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話を聞かせて貰った当時私は小学生だったので、とても怖かった。
しかし成長するにつれ、嘘くさいなぁと思うようになり、私の心にしまっていたのだが、たびたび思い出しては反芻していた。
そして最近また思い出した際に少し気になった事があった。
四つん這いの女は果たしてB美さんだったのだろうか、と。
順当に考えると、B美さんは失意のあまり例の山で自らの命を絶ち、自分を裏切った二人が通りかかった際に呪いを掛け、Cくんを死に至らしめた。
しかし、A子さんは「あれはB美じゃない」と言い切っている。そしてA子さんは亡くなってはいない。(話を聞かせてもらった当時は)
それを踏まえると、あれはB美さんと断言できない。
他の何か、人の心の何か後ろめたいモノに取り憑くような化け物であった可能性もあるのではないか。
言い方は悪いが、寝取ったA子さんにあまり後ろめたさが無かった為、助かったのではないか。
果たしてそんなモノが存在するのか、A子さんは現在どうしているのか、そもそも実話なのか…
話してくれた叔父さんも随分前に亡くなっているため、今となっては真相を知る由もない。
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