
【怪談】振っとけ
Yさん30代後半男性から聞いたお話。
Yさんは10年近い転勤の間に地元のアパートを引き払っていた為、転勤が終わると会社の社宅アパートに入る事にした。
アパートと言っても会社の倉庫に併設されている居住スペースな為、かなり広いものの1LDKの一部屋があるだけだった。つまり住んでいるのはYさんだけという状況だったそうだ。
その部屋は、隣室も2階も物置で、窓を開けると一面田んぼが広がっているだけで何も無い部屋だったそうだ。
Yさんが社宅に引っ越して数日経った日の夜中、誰もいないはずの2階から足音が聞こえ目が覚めた。
ちょうどYさんが寝ているベッドの真上あたりを早歩きでぐるぐると回っているような印象だった。それは午前5時ころまで続いたそうだ。
怖がりのYさんはその日は眠れず、次の日に上司へ相談したところネズミだろうと言われ相手にされなかったが、彼はネズミならばと思い立ちホームセンターへ寄りバルサン的なモノを買って帰り、部屋の天井にある点検口を開きすぐに煙を焚いた。
ネズミであれなんであれ、バルサン的なものを焚くと一挙に退治できると思ったからだ。しかも1階の天井裏に仕掛けるとその煙が2階にも回る為、いずれにしろ自分の頭上にいるナニカを退治できると確信していた。
が、その日以降も夜中に何かは相変わらず歩き回っていた。
参ってしまったYさんは週末、友人を誘い原因を探そうと考え友人に電話をかけたのだが友人から「お前の部屋、誰かいる?喋り声が聞こえる」と話されさらに震えあがってしまったそうだ。
そして週末の晩、友人が来てくれたので飲んだり映画を観たりしながら足音を待った。
その最中、友人がエッと声を挙げた。
窓の外に誰かいると言い始めたのだ。
またまたァ~…ちょっとやめてよォ~…と言いながら窓を凝視していると、明らかに人が横切った。
窓は擦りガラスだったのだが、真っ暗な窓の向こうを黄色っぽい服を着た何かが通り過ぎたのだ。
Yさんは「なんだ今の?人?いや田んぼの中をのびる道路を車が走ってライトが反射した?いやライトって感じじゃない、明らかに人のシルエットだったよな?」なんて考えているとまた何かが窓の外を横切った。
今度は白っぽい服だった。
間違いない、人だ。
Yさんと友人は「おいおいおいマジかよ!見た今の!?」「見た見た!いやマジで!?つうかマジで誰かいるんじゃねぇの?」
って事で二人は外に駆け出し窓を確認した。
外から見た窓は部屋の明かりが漏れ出しているだけで、はるか彼方の街灯が心許なく光っていたが、田んぼしかない見渡しの良い道路には車なんて走っていなかった。
しばらくの間2人は無言で遠くの道路を見つめて呆然としていた。
すると部屋の2階、Yさんの部屋の上の階の倉庫から
「…ドスドスドス…ドスドス!…ドスドス…」
といつもの早歩きのような足音が外まで響いてきた。
Yさんと友人の2人はすぐに部屋に戻ると必要最低限のものを持つと車で夜の繁華街へ車を走らせ、そのまま変なテンションで朝まで飲み明かしたそうだ。
後日、もう一度上司に相談すると上司は面倒くさそうに
「仕方ねーなぁ、コレ振っとけ」
と消臭スプレーをYさんに手渡した。
Yさんの頭は?でいっぱいだったが上司は「それ幽霊とかに効くらしいから、2階に振りまくれ。」と説明した。
Yさんは半信半疑のまま、仕事が終わり部屋に戻ると2階にも自分の部屋にも消臭スプレーを目一杯ふった。
するとアラ不思議、その日は足音が全くしなかったそうだ。
それから数日、微かに足音がした。
Yさんはすぐに消臭スプレーを振りまくると足音はまた、しなくなった。
そんな事を数か月続けていると、ついには足音が全くしなくなったそうだ。
都市伝説として消臭スプレーが効くとは耳にした事はあったが、まさか本当にそんな事があるとは驚きだ。
ただひとつ間違いないのは、Yさんの上司もなかなかのオカルトフリークだという事だ。
機会があったらぜひ「びっくりするほどユートピア」も試していただきたい。