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【怪談】同窓会
これはTさん40代男性から聞いた話。
Tさんが20代の頃、中学校の同窓会の案内が届いたそうだ。
中学からまだ付き合いがある友人と一緒に行くことになり、仲間内3人で会場の居酒屋へ向かったそうだ。
会場は全国チェーンの居酒屋の2階を貸し切ったところで、到着し座敷に座った頃にはほとんど集まっており、30人ほどいたそうだ。
幹事が挨拶をし、乾杯を済ませガヤガヤと宴会が始まった。
仲間内3人は隣り合って座ったが座卓の向かいには懐かしい同級生の姿があった。
彼をBさんとするが、中学の頃、仲が良いわけでは無かったが席が近い事もあり何度も話した事があった。
いつもニコニコしていておっとりしていて目立つ方では無かったBさんだが、今目の前にいるBさんも当時と印象としては変わらなかった。
仲間3人と何気なくBさんに久しぶりだなぁなんて話しかけたところ、思いのほかBさんはノリが良く、何よりTさん達ととても楽しそうに話しては笑ってくれてとても盛り上がったそうだ。
同窓会なんてきたものの、特に会いたい奴がいたわけでも無いTさん達はずっとBさんと4人で盛り上がっていた。
Bさんの、中学当時と変わらないにこにこ笑顔とおっとりした雰囲気にとても安心できたそうだ。
一方、他の同窓生がこちらに全く話しかけてくる様子が無く、それどころか遠巻きにこちらをチラチラ見ては顔をしかめている輩までいたので、Tさんは正直Bさんと楽しんだこと以外は印象が悪い同窓会になった。
1次会が終わり、2次会へ----…
という誘いが4人には来ず、避けられている感じさえした。
そんな同窓生なんてこちらから願い下げだわと、TさんとBさんと仲間2人の合計4人だけで小さな居酒屋で二次会をしたそうだ。
二次会も大いに盛り上がったが、さすがに夜も更けBさんがそろそろ…という事で解散することになった。
会計を済ませ居酒屋から出るとBさんは「俺あっちだから」と1人別の方向に向かって歩き始めた。
Tさんは、結構酔っぱらっていたし久々の旧友と過ごせた事が嬉しかった為、つい人通りが多い中Bさんの背中に向かって「また遊ぼうぜ!」とドラマのように叫んでしまった。今思うと恥ずかしい事をしたとも語っていた。
するとBさん「おう!つか今度ウチきてー!」と笑顔で手を振って帰って行った。
Tさん達は、結果的に良い同窓会になったし満足した気分で帰路に着いた。
次の日の昼、電話番号だけは交換していた特に仲の良いわけでもない同級生から電話が来た。
Tさんはその電話で目を覚まし、半分寝ぼけながら電話にでた。
電話の向こうの同級生は少し動揺しているかのように「おい!昨日どうなった!?無事か!?」と叫んだ。
Tさんは何だコイツうっせーなと思いながら大丈夫だよと返した。
同級生は何か腑に落ちないような様子でそれなら良かったと言ったが続けて、Bはどうしたと聞いてきた。
飲んだ後帰ったよと伝えると、電話向こうの同級生はマジか~…と何故か引いている。
Tさんは眠りを妨げられたのも相手の煮え切らない様子にも腹が立ってきて少し強めにどういう事かと問い詰めた。
電話向こうの同級生は
「いや俺もよくわかんねーんだけどよ、Bって中学校卒業してすぐ交通事故で死んだらしいんだわ。」
Tさんは何言ってんだコイツと余計に腹が立った。
しかも昨日意気投合したあんなに良いやつを二次会に誘わないどころか死んだ扱いなんてどういう神経してるんだコイツは。わざわざそんな嫌がらせの為に電話までしてきたのかと思うと、Tさんは怒りを通り越し呆れて溜息で返事をしたそうだ。
電話向こうの同級生は
「俺も噂では聞いててさ、でも会場着いたら普通にBがいるじゃん。
あ、噂は間違いだったんだなと思ったんだよ、昨日の会場で。
そんでさ、宴会始まって誰かがその話をしたんだよ。
でみんなも、同じ事思ってたーって笑ってさ、あとでお前らのテーブルに行こうって話してたんだよ。」
Tさんはまだ寝起きで頭は回らないわ、わざわざ電話してまで何を言いたいかわからん話を聞かされるわ、イライラと呆れとダルさと二日酔いで寝たまま目を開けずため息交じりに聞いていた。
で何が言いたいんだよと言うと電話向こうの同級生は
「でもさ、Bの通夜に出たってやつがいたんだよ。
間違いないって。そいつもうビビッちゃってさ。
そしたらもう一人の女子もBの通夜に行ったっていうんだよ。
間違いなくBは死んでるって。ここに来れるわけないって。
あれ幽霊だって。」
Tさんには馬の耳に念仏というか全く意に介していなかった。
最初に言った奴の勘違いで、メンヘラが同調しただけだろと。
Bとは二次会も最後まで飲んだし、中学校卒業したあとの話しもした。
Bは卒業後、自分の父親が切り盛りしている工場で働いてて今資格を取るために頑張ってると。その資格があればもうちょっと工場も楽になるしオヤジにも楽させてやれると。輝いた目で語っていた。
お互い頑張ろうぜと4人で何度も乾杯した。
恥ずかしながら彼女が出来た事がないと言っていたから今度みんなでナンパでも行くべと。
Bと飲めて今日は最高の同窓会になったと話したら、Bも、本当に楽しい、こんな楽しい事があったのかと嬉しそうに話してくれた。
それを、そんなBを幽霊扱いして何が楽しいのか理解出来なかったし苛立ちはもう限界だった。目の前にいたら間違いなくぶん殴っていた。
Tさんは「あっそ」とだけ言って電話を切ってやった。
数日後、Tさんへ仲間内の一人から電話が来た。
どうやら似たような話が仲間内にも同窓生から入ったらしい。
当然ながらBさんと一緒に飲んだ仲間たちも内心穏やかではなかった。
その翌週の週末にTさんと仲間2人と集まり、Bさんに誘われたのもあるしBさんの家に行ってみようという事になった。
Tさんらは誰もBさんの携帯番号を聞いていなかった為アルバムを開いた。
今では信じられないが、当時は卒業アルバムに住所と家の電話番号が記載されているのが普通だった。
突然お邪魔するのもなんなので家の電話に掛けてみた。
が、誰も出なかった。
車もあるし、一応その住所に言ってみようぜという事になった。
Tさん達は、またBさんと遊びたいのもあったが目的はBさんの生存確認である、家の誰かに挨拶して携帯番号を渡すだけでも良いのだ。
生存確認が出来れば、それぞれ電話を掛けてきた同級生に真実を突き付けてやって同窓会の非礼を謝らせてやりたかった。
Tさんらは夜8時ころに車で出発し、8時20分頃にはBさん宅に到着できた。
そこは普通の一軒家で人も住んでるようだし、Bさんが在宅だろうが外出だろうが勝ちだと確信したそうだ。
3人で車を降り、Bさん宅の呼び鈴を鳴らした。
中から「はぁ~い」と女性の声が聞こえすぐにBさんの母親と思われる女性が玄関を開いた。
Tさんら3人は
「夜分遅く申し訳ありません、Tと申します。Bさんの同級生なんですが、Bさんはご在宅でしょうか?」
と尋ねた。
母親らしき女性は驚いた様子で「は?」と言った後困った様子だった。
Tさんはハッと気付き、苦笑いしながら
「あ、怪しい者じゃないです。先週同窓会で再開して意気投合したもので。
もしご不在なら私の携帯番号書いたメモ置いていきますので渡してくれれば…」
と伝えると、母親と思われる女性は困った様子で
「いえ、あのぅ……
Bはもう亡くなってますが…」
Tさんら3人は驚いた。
伝えても無駄だとわかりつつも、どこか間違いであってほしいというか考えるより先に
「いえいえ!先週飲んだんですよ!4人で!ほらあの駅前の居酒屋で!
2時ころまで!」
と捲し立てたが、母親らしき女性は「はぁ…」としか言わなかった。
そこから数十秒沈黙が続いたが、Tさんは、ではお線香だけでもあげさせてくれませんかと尋ねると母親は少し引いていたが、そういう事なら…と家に上げてくれた。
玄関を入ってすぐ右側に和室があり、そこに仏壇が有った。
仏壇に飾られている遺影は間違いなくBさんだった。
呆気に取られていると仲間内の一人がポツリと「マジかよ…」と呟いた。
それぞれ無言で線香を上げたが、頭の中はカラッポだった。
ただならぬ雰囲気を察したのだろう、Bさんの母親が、何か事情があるのですか、と尋ねてきた。
仲間2人は言っても信じてもらえないどころか怒られるだろうといった表情で母親と目を合わせず気まずそうに正座していたが、Tさんは「信じてもらえないでしょうけど」と前置きをして全てを伝えた。
母親はうんうんと聞いたあと涙ぐみながら話してくれた。
「実は同窓会の招待状が届いたんです。
でももう亡くなってるし断りの連絡を幹事さんに入れようと思っていたんですが、招待状が無くなってたんですよ。
家人に聞いても誰も知らないって言うし。
それで同窓会の次の日だと思いますけど、招待状が見つかったんですよ。
仏壇に置かれてあって。
私それが不思議で…
きっと招待状隠してたんでしょうね、同窓会に行きたくて…
断られるのが嫌で…」
後半Bさんの母親は声にならずにボロボロと泣いていた。
それを聞いたTさんは、Bさんとの会話を思い出していた。
あれらはこれからやりたい事ではなく、生きていたらやりたかった事なのだと。
それに気づいてか気付かないでか、他の2人は肩を震わせグゥッグゥッと泣き声を堪えていた。もちろんTさんも。
一時間ほど後、Bさんの家から帰る時にBさんの母親は、良かったらまたBに顔を見せに来てあげてねと言ってくれたそうだ。
3人は今でも年一回くらいは仏壇に線香をあげ、お盆には墓参りもしているそうだ。墓には線香とタバコも添えてやったりすると。
「吸うかどうかわからんけど、俺らの仲間なら間違いなくスモーカーだわw」
とTさんは笑って話してくれた。
話を聞いた時に私は思った。
Bさんは何故、居酒屋の別れ際に「また遊ぼう」ではなく「ウチに来て」とTさん達に伝えたのだろうか。
家に行けば死んでしまってるのがバレてしまうのに。人によっては気味悪がってしまうのに。
きっとBさんは、Tさん達の事を信じたのだろう。
来ない明日の夢を楽しく聞いてくれた彼らを。