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【怪談】テトラポッド
今は退職されてらっしゃる年配の男性Kさんから聞いたお話。
Kさんは若い頃から建設業で退職まで現場人であった。
私も若い時分にお世話になり、その時に聞かせてくれたお話だ。
数十年前、とある海沿いの建設現場での出来事だったという。
そこの現場は目の前に海が広がる見晴らしの良いところで、テトラポッドがずらっと並び道路と海を隔てていた。
なのでKさん含む作業員は休憩や昼食はそのテトラポッドに座って海を眺めながら過ごしていたそうだ。
長い現場だったので数か月そこに通って同じようにテトラポッドで過ごしていたある日、一人の作業員が「なにこれ」と呟いた。
どうしたとKさんが尋ねると、すぐ目の前のテトラポッドを指差して「それそれ」と言う。
Kさんがのぞき込んでみると、そこには女性のものと思われる長い髪の毛が束であった。
テトラポッドの上に髪の毛?なんで?とよくよく見てみると、髪の毛は「ある」のではなくテトラポッドから「生えて」いた。
20×20cmくらいの範囲からまばらに生えていたのだ。
気持ち悪いというのが率直な感想だった。
テトラポッドの中に何かあるのは間違いない。が、とてもじゃないがそれに触る気もしない。
テトラポッドというのは大きなコンクリートの塊だ。
テトラポッドの枠にコンクリートを流し込む際に何者かが何かを処分するために何かを放り込んだとしても、それが砕かれて中から何かが発見されるなんてのは当分ありえない。
そんな考えが頭を過ったが、Kさんと作業員は無言でその場から離れたそうだ。
Kさんは私に「今思うとね、何か得体の知れない虫だったかもしれませんけどね、それはそれで気持ちワリィよね。」と笑いながら話していた。