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【怪談】廃ホテル帰り
30代男性のNさんから聞いたお話。
地元の山奥に大きな廃ホテルがある。
その山はスキー場や動物園、キャンプ場そのほか釣り堀や神社などが点在しその山自体が大きなレジャー施設のようになっている。
昔はそのホテルも賑わっていたのだろうが数十年前にはもう廃業したようで、私の知る限り20年程前にはもう廃墟と化していたようだ。
というか既に心霊スポットとして有名であった。
夜中に行くと窓から手を振っている人がいるだとか、建物内に無数の人がいるだとか。
ユニークなのは、その土地の所有者がヤクザで、無断侵入すると拉致される、なんてのも聞いた事がある。
Nさんは15年程前、10代の頃にその廃ホテルに行ったそうだ。
彼は珍走団だった為、チームのメンバー男女5人ほどでバイク3台、二人乗りで肝試しに向かったそうだ。
この際、当時彼女がいなかったNさんだけ一人で、あとの友人らは彼女と二人乗りだったそうだ。
到着したものの、そこはかなりの山道を超えた先にある廃ホテルで、街灯なども全く無くあたりは真っ暗だった。
友人らはノリノリで、懐中電灯片手に建物内に向かったそうだが、ビビリなNさんは「女子は怖がるだろうから」と、女子二人と外の駐車場で待っていたそうだ。
数分後、建物内に向かった友人らは「ヤバイヤバイ」と言いながら走って戻ってきた。
彼らが言うには、女性が一人で廊下に立っていたという事だった。
友人らは詳しい事を話さず「逃げろ逃げろ」とバイクに乗り込み、女子たちも「え~まじ!?」と言いつつ彼氏のバイクの後ろにまたがり、Nさん以外は二人乗りですぐにその廃ホテルを出たそうだ。
Nさんは一人でバイクに乗っていた為、先頭を走って山道を下り始めたのだが、幽霊を目撃したという友人二人のバイクがいつもと違い落ち着きのない運転だという事がミラー越しにわかった。
街灯も無い真っ暗な山道、しかもスピードが出やすい下り道、何よりも彼らは彼女らと二人乗りしている。
幽霊を目撃してテンパっているのはわかるが事故られたら大変だと思ったNさんは、先頭をゆっくり走り全体のスピードを落とす事にした。
友人らもNさんの意図を理解したようでスピードを落とし、ひとまず落ち着いた運転に戻ったように見えた。
Nさんはホッと一息ついたが、友人らがまた蛇行し始めた。
なんだあいつらとミラーを睨んだが、その蛇行の様子が先ほどとは何か違う。
こちらに大きく手を振り、クラクションを鳴らし始めた。
まるでNさんに何かを訴えたがっているようだった。
Nさんは不思議に思ったが、心霊スポットの帰りだったことを思い出し恐怖が押し寄せてきた。
自分には何も感じないし見えないが、まさか後ろに幽霊が乗ってるなんて事が…と想像するだけで恐ろしくとても運転どころではなくなり、炉端にバイクを止めて一度みんなで落ち着こうと考えた。
が、ブレーキが効かない。
全く手ごたえが無い。
Nさんはパニックになって絶叫した。
下りの山道で思ったよりスピードは出るし、急なカーブが多い。
もうガードレールに突っ込むのも時間の問題……
というところだがそこはバイク好きの珍走団。
情けない悲鳴を上げつつも、ギアの調整ひとつでスピード調整をしながら10kmほどの山道を下りきったそうだ。
下りきったところにポツンとコンビニがあるのだが、そのコンビニの明かりが見えたあたりでブレーキが効くようになり、すぐさまそのコンビニの横にバイクを停めると友人らもすぐに追ってきて停まった。
憔悴しきったNさんを見た友人らは大丈夫かと確認したあと、走行中の事を教えてくれた。Nさんの予想通り、Nさんのバイクに、先ほど廃ホテル内で見た女が乗っていたと。
ホテルを出てすぐは確かにNさんのバイクはNさんしか載っていなかったが、途中、減速させてくれたあたりで突然Nさんにしがみ付く女が見えるようになったと。
それを知らせるためにクラクション鳴らしたり手を振ったりしたが、Nさんがグングン先を進んで行ってしまい、ついさっきフとしがみ付いていた女が消えたそうだ。
友人らと「マジで怖ぇ…こんな事あるんだなと…」と震えていたが、Nさんの「ブレーキ効かなくてよ」発言から「マジで!?それで山道下ったん!?あはははウケる!」「おい笑い事じゃねーってwww」と何故か変なテンションで笑い話で終わってしまったそうだ。
Nさんはその後もバイクに乗り、その山道を通ったりするが特に変わった事はないそうだ。
ちなみに廃墟youtuberがその廃ホテルを投稿しているようだ。