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【怪談】通夜の電話

知人から聞いた話。

十年程前の話、男子中学生だったAさんの祖母が亡くなったため、母方の実家で通夜をしていた。

田舎だった為、親戚一同集まり、その実家にお坊さんを読んでお経を読んでもらったあとに祭壇と亡骸のある広間でお坊さんも交えて食事をするのが普通だったそうだ。

祭壇の手前に亡骸が入っている棺を置き、その前に大きなテーブルを三つほど出して三十人ほどの宴会が始まった。

親戚のおじさんらは料理を食べ酒を飲みながら故人の思い出話に花を咲かせていたそうだが女性の方々は料理やお酒を出したりで忙しそうだった。

一方Aさんは一通り食事をした後、酔っぱらったおじさんらに絡まれるのも嫌だしおばさん方の手伝いをするのも面倒くさく、何より「祖母が亡くなったばかりなのにこのどんちゃん騒ぎは何だ。」と場に馴染めずにいたため、広間の隅のソファの上で宴会を遠目に持ってきた本を読んでいたそうだ。

そんな時、実家の電話が鳴った。

その電話は広間から出たすぐの廊下の電話代の上に置いてあった。

Aさんは周りを見回したがおじさんらは聞こえないフリをするように大声で盛り上がっていたし、パタパタ忙しそうなおばさんらは電話をきにしつつビール瓶を下げたり料理をもっていたり手が塞がっていたようだった。どうしたものかと思っていたら実家に嫁いだおばさんの声がした。

「Aくーん、電話でてくれるー?」と、広間のソファから廊下を挟んだ向こう、台所から顔を上げずAさんにお願いした。洗い物でもしていたのだろう。

Aさんは手持無沙汰だったし、仕方ないと溜息をひとつ吐き、ソファから立ち上がりすぐ横にある襖から廊下に出て電話の受話器を持ち上げた。

「もしもし…」

Aさんはいつも通り電話に出たが、ここは母の実家、自分とは違う苗字だと気付いたもののすぐに母の旧姓が出てこず歯切れの悪いもしもしになってしまったと思った。

相手は無言。もしかして自分の歯切れの悪い「もしもし」のせいで相手は待っているのかと思いもう一度「もしもし。」と繰り返した。

すると、相手が「もし?」と返してきた。

それは弱弱しい女性の声でやけに周りががやがやと騒がしく聞こえた。

Aさんは「はい?」と聞き返すと、相手の反応は無かった。騒がしい電話向こうの雑音ばかりが聞こえている。

相手の反応が無い為、気まずい雰囲気にAくんも無言だったそうだ。

ガヤガヤと騒がしい耳障りな電話向こうの雑音ばかりが耳に入ってくる。

飲み会でもしてんのか?こっちは祖母が亡くなったばかりだってのに。しかもそれを尻目におじさんらが宴会をやってて虫の居所が悪いのに。なんだってんだよ。

そう思いながら無言で受話器を耳に当てていると、ふとAさんは気づいた。

その電話向こうから聞こえるガヤガヤとした騒音が、今自分の後ろで行われている宴会の声とシンクロしている。

Aさんはあれ?と思った。聞き間違え?何か反響してる?いろいろと頭を巡ったが彼は「誰か広間からわざわざ電話してきてる?」と思い至った。

電話をしている廊下から広間の中はギリギリ襖が影になり中の様子はわからなかった。

広間にいるおっさんのイタズラかよ、だから酔っ払いは嫌いなんだよと思い電話を切ろうした瞬間、受話器の向こうから女性の声で

「元気でな」と聞こえすぐに切れた。



Aくんは唖然とした。最後の声でわかった。その女性の声は亡くなった祖母だと。

何が起きたかわからなかった。

祖母が携帯から掛けてくるわけがない。携帯持ってないよな。てか亡くなったよな。え?なんで?

Aさんはとにかく、宴会をしている広間に横たわっている祖母の亡骸を確認しようと広間に走った。

その最中も「さっき思い浮かんだすべてがありえない。ばあちゃんからの電話は絶対あり得ない」とわかってはいたが、祖母の確認はしなきゃだめだと思った。

宴会をしてるおじさんたちの脇をちょっとごめんと無理やり押し寄せ、奥に横たわっている祖母に駆け寄った。

駆け寄った瞬間に祖母のまぶたがスッと閉じたように見えた。

えっ!今まで開いてたの!?と思ったが、祖母らしき人物から電話が来てパニクったせいでそう見えただけの気がした。

焦って走ったせいで距離にして数メートルだったにも関わらず心臓がバクバクしていたが目の前の光景を無理やり納得させようとしたため、息をのんだまま祖母を見つめていた。


すると宴会をしていたおじさん達のひとり、ちょうどAさんの真後ろに座って飲んでいたおじさんがAくんに向かって少しだけ驚いたように小声で


「今ばあちゃんの目ェ、一瞬開いたよな!?」


と言った。

Aくんは「…うん!」とだけ言い、またソファに戻り漫画を読んだ。

そのおじさんも、Aくんの返事を聞くと驚いた表情はしたもののすぐにおじさんらの話に戻ったからだ。Aくんも、ここで電話の話をしたところで「雰囲気に酔った痛い中学生男子」と思われるだけだと思い話さなかった。



Aさんは私にこの話をしてくれた時に「まぁ昔の事なんで脳が勝手に捏造してる部分の方が多いと思いますけどね。」と言っていた。

ただ、死んだ人間とういのは同じ言葉を続けて言えないという話を聞いた事がある。電話向こうの女性が「もしもし」ではなく「もし?」と言ったのもそういう事ではないかとAさんに伝えた。

Aさんは最後に、

「あの時電話出ちゃいましたけど、本当は誰に最後の言葉を伝えたかったんですかね?わざわざ死んだ後に電話して、出ちゃったのが私だったんで少し申し訳ないな。」とも笑っていた。

私は、Aさんにこそ電話したかったからだと思うのだけど。

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