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秋の夜長に起きやすい睡眠障害〜自然な眠りを得るための漢方や生活習慣~

今年の猛暑も落ち着き、気温の低下とともに秋の気配を感じられるようになってきました。
寝苦しい夏の夜も過ぎ去り、過ごしやすい気温とともに、これからは眠りに良い時期の到来!と思いきや、意外と秋は不眠に陥りやすい時期とも言われています。過去のデータになりますが、ドラッグストアなどで購入できる一般用医薬品(OTC薬品)の内、催眠鎮静薬の販売ピークは5月、8月、10月だそうです。
「眠りの秋」というように、一見過ごしやすいイメージのある季節ですが、実際は不眠症や睡眠障害で困っている方は多いのです。


【秋に起こる不眠の原因とは】

では、なぜこの季節に不眠症が増えるのか。
その要因には、日照時間の減少が関係しているそうです。冬に向けて日照時間が短くなることで、光刺激が減り、眠りに関するホルモンに影響するからだそうです。光刺激の不足は、精神安定に不可欠な脳内伝達物質であるセロトニン不足を招きます。セロトニンは、体内時計を調整して安眠作用を高めるホルモン「メラトニン」の原料でもあるので、陽を浴びる時間の減少と共に睡眠も不安定になりやすくなります。セロトニンの分泌が不足すれば、精神不安も招きやすくなるので、不安やイライラ、ウツウツとした気分も余計に不眠を招いてしまうのかもしれません。「女心と秋の空」とは言いますが、変化しやすいのは秋の空模様だけではなく、実際にホルモンの影響を受けて、情緒も不安定になりやすいのが秋なんですね。

ちなみに、東洋医学でも古くから秋は不眠の起きやすい季節と捉えます。
その背景として、夏に消耗した陰血(体液と血液)不足によって、心臓と脳の血流量が減少するからと考えます。
以前、テレビ番組の中でお医者さんが、
『寝付きの悪い方は、寝る前に体を横にして、枕や台に足を乗せて少し高くした状態で左右にブラブラ揺らす体操をすると寝つきが良くなりますよ』とコメントされていました。その目的は東洋医学の考え方と同じで、足の末端に停滞している血液を心臓に戻すことで、質の良い睡眠を得やすくなるという内容でした。
実際に漢方薬で不眠に対応したものの多くの原料には、補血(増血)作用のものがよく使用されています。
病院処方の扱いの中でも不眠に効果のあるものとして、
・酸棗仁湯(サンソウニントウ)
・帰脾湯、加味帰脾湯(キヒトウ、カミキヒトウ)
・逍遥散、加味逍遙散(ショウヨウサン、カミショウヨウサン)
・温経湯(ウンケイトウ)
・抑肝散、抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサン、ヨクカンサンカチンピハンゲ)
などは、原料に増血作用の生薬が配合されています。

【不眠や不安は〝血液〟に問題があり⁉】

季節に関係なく、新型コロナウイルスの発生以降、心身ともに健康状態が悪化し、「眠れない」、「イライラする」、「落ち込みやすい」というお声を店頭でよく耳にします。不眠や情緒の不安定は血流が滞る「瘀血(おけつ)」と関係が深く、十分な量と良質な血液を身体中に巡らせることが五臓の働きを正常に戻し、精神も落ちつかせてくれます。
また、東洋医学では精神の安定と肝(五臓の一つ)の働きが密接に関係すると考えます。肝には「血を貯蔵する」という大きな役割があり、この貯蔵する量が足りなくなると精神不安やイライラが起きやすくなると考えます。生理前の女性が落ち込みやすくなったり、イライラしやすくなるのはホルモンバランスの乱れだけではなく、血が足りなくなるのも大きな原因です。
今年のような酷暑の場合には、暑さによる陰血の消耗だけでなく、食欲不振によって肝の蔵血(血を貯蔵しておく作用)の低下を招いていることも考えられます。そんな時には、胃腸機能を高める漢方なども、不眠の改善につながる手立てとして考えられます。
心身の安定を保つためには、臓腑の機能を高め、体内の血液の状態を改善し、その上で良い睡眠をキープすることがとても大事なんです。

【入浴や朝の光も睡眠に影響】

人は体の深部体温が低下することで眠りに入っていきます。その下がり幅が大きいほど眠りにつきやすくなり、深い睡眠がとれるということが分かっています。
入眠の1~2時間前に入浴して体温を高めておくと、眠りやすくなるのもそのためです。43度以上などお湯が熱すぎると逆効果なので、40~42 度でゆっくり温まるのが効果的です。お風呂上がりに冷たいものを飲むと、せっかく温まった深部体温が下がるので要注意です。冷え性の方は睡眠障害が起こりやすく、まずは冷え性を治すことが大切です。酷暑のせいで、入浴をせずにシャワーだけで済ましてしまったという方も、秋になって不眠が起こりやすい原因の一つと考えても間違いではありません。
入浴をすることで不眠の改善がみられた実際のケースでいうと、不眠で悩まれていた90歳の女性が、独居という状況もあって毎日の入浴が困難で、週に2回のデイケアでの入浴(昼間の時間)しかできない状態だったために、毎日寝る1時間前にお風呂場で少し熱めの温度で足湯を10分してもらったところ、1週間もかからずに不眠が劇的に改善しました。
他にも歩行困難車の方で、家族の介助をもと昼間の入浴の習慣を、夜の時間帯に変更してもらっただけで、睡眠が改善した例もあります。
寝る前に血流を高めること、体温を上昇させることは簡単に手に入れられる睡眠安定剤です。ちなみに、体内時計がきちんと働いている人や、若くて代謝が高く冷え性などがない方であれば、夜8時~10時頃は一番深部体温が高くなり、入眠に適した時間といえます。体内時計は太陽光で調整されます。朝光を浴びると睡眠に関わるホルモン「メラトニン」の分泌が止まり、目覚めてから14~16時間経過すると再び分泌されます。朝しっかり太陽の光を浴びることも、自然な睡眠を獲得する上では大切なことです。逆に、朝の光で早すぎる時間に目が覚めてしまう場合は、遮光の工夫をしましょう。

【血液不足やストレス・不安など細やかに対応】

漢方薬を用いるときは、それぞれの症状や体質に応じて細やかに対応します。
血液が足りていない人は、

・なかなか寝付けない
・中途覚醒が多くなる
・夢を多く見て熟睡感が無い
・くよくよ考える

などの症状が出やすく、睡眠やメンタルに大きく関わります。このタイプには血液を増やす力をつける漢方薬が有効です。うつ・不眠は脳内の血流低下と関与するため、血流障害にも注意します。
ストレスによる精神疲労が強いタイプには、気の高ぶりを鎮めて精神を安定させ、副交感神経を優位にすることで眠りの質を高める漢方薬を使います。
その他のタイプにも、その人の状態や体質に応じて処方を行います。漢方の役割は、薬の力で無理やり眠らせるのではなく、本来あるべき自然な眠りを得られる状態に、体を整えていくことが目的です。
ただし、漢方薬は一つの目的であっても種類が豊富に存在するので、どれが自分の体に合っているかを知るには、お近くにいる専門家に相談されると良いですね。

【睡眠のために脳が喜ぶ栄養素】

漢方の他にも、睡眠のためには眠りを導くアデノシンや、GABAなどの睡眠物質が脳内にたっぷりと満たされることが必要です。
睡眠物質は、脳内でブドウ糖、アミノ酸を原料とし、亜鉛、セレン、鉄、ビタミンB群などの栄養素の働きによって作られます。ところが、ミネラルが不足しがちな現代人や、食が細くなっているお年寄りは、睡眠物質を作るために必要なミネラル、アミノ酸などの摂取が不足しています。ぐっすりとした眠り、スッキリとした目覚めには、睡眠物質を作るために必要なブドウ糖、アミノ酸、ミネラル、ビタミンをしっかりと摂取することが必要不可欠です。
加えて、冒頭にも触れた眠りや心を安定させる脳内伝達物質「セロトニン」を増やすことも大切です。現代人の多くはセロトニンが不足した状態にあるといわれています。セロトニンはタンパク質に含まれる必須アミノ酸のトリプトファンという物質から合成されます。ただ体内では生成されないため良質のタンパク質を食事から摂る必要があります。トリプトファンが豊富に含まれる食品は大豆・豆製品、乳製品などです。さらにトリプトファンからセロトニンを合成するときにはビタミンB6が必要となります。ビタミンB6を豊富に含むのは玄米や小麦胚芽、牛、豚、鶏のレバー、マグロや鰹の赤身などが推奨されます。
とはいえ、食事だけではバランス良くというのもなかなか難しいので、当店では漢方薬以外でも、睡眠改善や精神安定を図るためにマルチミネラルなどのサプリや健康食品も一緒に提案して、栄養素の面からもサポートすることも重要視しています。

睡眠は人間の欲望の中でも一番抑制のできない行動です。
体が疲労していればその回復を求め、脳にストレスが溜まればリフレッシュしてくれるのが睡眠です。
睡眠は、本来薬以上に体を治療してくれる特効薬です。
現代人は夜間のスマホの使用、偏った食事、運動不足、体を冷やす、日に当たらないなど、睡眠という自然の薬の効果を減らす行為をしがちです。さらには目先の辛さに耐えられず、身近にできる養生をせぬまま、睡眠薬や導眠剤に頼ってしまい、そのまま離脱できなくなるケースが多いです。もちろん重度の方なら、病院の薬を頼ることも必要ですが、できることなら生活習慣や栄養面の改善、漢方薬の服用で少しでも自然の眠りを取り戻して、元気な毎日を過ごしてほしいですね!


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