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キジトラ猫の危機

(いったい何をしようというのだ!)

上から生暖かい水を浴びせられ逃げようにも
押さえつけられ身体がどんどん濡れていく。

吾輩ら猫にとって水は水分補給のために
なくてはならないものだが
同時に命を奪うものでもある。

身体は、この冬の時期分厚い毛で覆われている。
この毛がないと、瞬く間に身体の熱を奪われ
一気に衰弱していくだろう。
死活問題なのだ。

じわじわと毛が重苦しくなり、身体にまとわりついてくる。
この感触は非常に不快だ。
身体を震わせて水をはじこうと試みるも
うまくいかない。
こんなにも毛が濡れることなどない。


やはり人間は信用ならないのか。
安心しきっていた吾輩が甘かったのか。

裏切られたような気持ちで人間を見ようにも
うまく見ることができない。

悔しい・・・。

これが相手が猫や鳥とかだったらこちらも遠慮せずに
このするどい爪を出して抵抗して
目に物を見せてやるところだが。

相手は人間だ。
吾輩は、一度誓った誓いは守る。
誇り高き猫なのだ。

不本意でも、こちらの刃は決して見せぬ。
この爪も、この牙も人間にも一撃を与えられることはわかっている。
でも、今の吾輩の刃すべては我が誇りを守るためのもの。
むやみに傷つけるものではない。

吾輩はただただ力いっぱい泣き続けた。

しばらくすると、やっと水音が消えた。
相変わらず人間は何かしゃべり続けている。

身体を覆い隠されもしゃもしゃと揺れる。
やっと少し毛並みが戻った。
吾輩は急いで毛づくろいを始めるが
不快な強風のせいでうまくいかない。

毛並みが元通りになり凍える心配がなくなって
ようやく落ち着いてきた。

いつもの人間だ・・。

いつも食料をくれる。
飢えずにすむんだ。

吾輩は少しため息をついてから
人間の望むような声で一鳴きした。

(それにしても・・・
 よく人間は毎日こんなものに入る。
 気が気じゃない。)

扉が開いてからは一目散に走り
いつものソファーの上で毛づくろいを始める。

吾輩ら猫はこうして毛づくろいするから
水浴びなどする必要ないのだがな・・。

また少しため息をついてから
ごろんと横になった。

(これも家猫になるための学びか・・・。)
ぼそっとつぶやき目を閉じた。

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じゅり
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