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ガラスペンさんとボールペンさんの討論会

「そもそもで私。
 ボールペンさんと討論なんてする立場じゃないの。
 むしろできないと思うの。」

青空を身体に纏ったような透きとおったガラスペンさんが
透き通った声で言いました。

「今の私は昔の私じゃないのよ。
 引く手あまたなボールペンさんと違ってね。」

ガラスペンさんの言葉に見守っていたガラスペンさんたちが
自身の身体を大切にふわふわのコートで包みました。

「昔の私はね、そりゃあ働き者だったのよ。
 今と違って竹筒のインクで黒く汚れた身体。
 それでも、インクもちが良くて安く手に入るって
 大勢の人が私を使ったわ。
 そう、今のボールペンさんみたいに。」

ガラスペンさんは、また一呼吸おきました。
繊細なガラスペンさんはちょっとでも感情が高ぶって
まわりにぶつかってしまうとたちまち壊れてしまいます。

「アメリカからボールペンさんがやってきて
 最初は大丈夫だったけれど、またたくまに
 私は売れなくなった。
 安くて丈夫で。使いやすい。折れない。
 自分の脆さを呪ったわ。
 次第に私は取り扱いが少なくなった。
 反対にボールペンさんは次々と新商品が出されて
 なくてはならない存在になった。」

ボールペンさんの代表は、落ち込むガラスペンさんをじっと見つめました。
ガラスペンさんはそんなボールペンさんをキッと睨みます。

「私は、筆記具としてボールペンさんと討論できるような身分ではございま  
 せん。これ以上語ることは難しいです。」

ガラスペンさんが座ると、ボールペンさんがしゃべり始めました。

「私は、嫉妬していました。ガラスペンさんに。」

ガラスペンさんは、怪訝な顔でボールペンさんを見つめました。

「ガラスペンさん。私たちボールペンの扱いをご存じですか?
 私たちボールペンは確かにガラスペンさんがおっしゃる通り
 頑丈で、今では多くの方が世界中で使用していただいています。
 それはとてもありがたいことだとわかっています。


 でも、頑丈だからといって、扱いが雑だったり、使い捨てされたり
 頑丈でも傷つくんです。
 でも、ガラスペンさんは割れてしまうからみんなが大切に扱っている。
 知っていますか?ガラスペンさんは、筆記具の中で工芸品として扱われて  
 いるんですよ?同じ筆記具でもこの扱いの差。
 私たちが何も考えていないとお考えですか?」

ガラスペンさんは、少し驚いてオロオロしました。

「知りませんでした。ボールペンさんがそんなことを思っているなんて。
 私たちはただ・・・。」

ボールペンさんは、美しいガラスペンさんの顔が青くなるのを見て、
目を背けてから小さくため息をつきました。

「ガラスペンさん。私たちボールペンも新商品がたくさん出てきていますが、ガラスペンさんもそうですよ。
初めて、風鈴職人の手からあなたが誕生してから、あなたは海を渡り
ガラス職人の手で丁寧に作られた。
そして、現在あなたはその全身の美しさで多くの方を魅了している。
手作業で、気持ちを込めて作られる芸術品のようなガラスペンさんもいらっしゃる。丁寧にお手紙を書くのに使用され慈しまれるあなたが羨ましいですよ。」

討論会場がシンと静まりかえりました。
ガラスペンさんもいたたまれなさそうに下を向いたり
他のガラスペンさんとコソコソ話し合っています。

ボールペンさんも自らの半生を考えるように
目を閉じたり、まっすぐに美しいガラスペンさんたちを
見つめています。

「ごめんなさい・・・。
 筆記具としての私の場所をあなたに奪われたような気がしたの。
 いつも頑丈で、たくさんの人に使用されて筆記具の代表ともいえるボール 
 ペンさんが、そんなことを思っているなんて全く知らなかった。」


ガラスペンさんの代表が深々と頭を下げ
中のインクが少し討論会場に落ちました。
ボールペンさんはじんわりと落ちたインクを見つめます。


「ガラスペンさん。でも今少し私は安心しています。
 美しくてお姫様みたいに大切にされているガラスペンさんも
 そんな激しい感情を持っていることに。
 私だけが、このモヤモヤした感情を持っているんだと
 思ってました。だから、扱いが雑にされちゃうのかなって。


 でも、こぼれたガラスペンさんのインクは私の中身と
 そんなに変わらない。
 ガラスペンさん、ごめんなさい。
 あなたの悩みをわかっていなくて。
 勝手にガラスペンさんのイメージを作ってしまっていました。」


ボールペンさんは、ガラスペンさんに深々と頭を下げました。

ボールペンさんとガラスペンさんはお互いに顔を見合わせ
二コリと笑いました。

この日の討論会はこれで終了です。

次回の討論会はいったいどんな討論会になるのでしょうか。

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じゅり
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