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えっ、私が思い人⁈

子供が小学校に上がったので
何かパートでもしようかなと思って
近くの工場で検品と出荷の手伝いの仕事を始めました

倉庫の棚に種類ごとに行儀よく並べられた商品を
ピックアップしてカゴに入れてそれを行先ごとに台車に乗せて
軒先で待っているトラックやワンボックスカーの後ろまで
運ぶのが私の仕事
始めの内は倉庫の中をあっちへ行ったりこっちへ行ったり
目を白黒させて走り回って家に帰るとしばらくグッタリしたものだけれど
それれでも最近は慣れてきて倉庫の中を右往左往せずに
効率よく商品を集められるようになってきました

そんなある年の春に
おとなしそうだけれど一生懸命に仕事をする男の子が
配達の仕事でやって来るようになりました
ベテランの配達員が多いここの工場だけれども
ひとつひとつおぼつかない様子で伝票と商品の確認をする姿を見て
私たちパートの女性陣は「頑張れぇ~!」と心の中で応援していました

最初の内は「おはようございます」と「ありがとうございます」としか
言わなかった男の子が仕事に慣れてくると
色々と世間話もするようになり
男の子が地方から出て来て
ワンルームマンションで一人暮らしをしていると聞いて私は
「このお菓子美味しいから食べる?」とか
「お洗濯をするときはね・・・」とか
「お掃除をするときはね・・・」とか
「なんならお弁当を作ってあげようか」とか
頼まれもしないお節介を焼くようになり
ベテランの配達員のオジサンたちから
「△△はまるで○○さんの弟か息子みたいだな」と冷やかされる始末
△△くんもだんだん打ち解けてきたのか
私がいつもくくり上げていた髪の毛を切ったときに
「○○さん、髪切ったのですか?」
「そのショートボブめっちゃ似合ってますよカッコイイ!」
と上手なお世辞を言うようになったと思っていたある日のこと

上司から30分程度の残業を依頼され
一人で倉庫の中で作業をしていた時だった
後ろから「お疲れ様です。」と声がかかったので振り向くと
△△くんが立っていた

「あら、こんな時間にどうしたの?何か忘れ物?」
「○○さん、いつもお菓子をいただいたり、食べ物をいただいたり」
「仕事のことだけでなく生活のことまで色々とお気遣いいただいて」
「大変ありがとうございます」
「とんでもない、私のほうこそ勝手にお節介を焼いて」
「ご迷惑でなかったかしら?」
と、そこまで言って私はいつもの人懐っこい笑顔がないのに気付いた
「あ、あの、○○さんがいつも僕のことをきにかけてくださり」
「優しく、し、親切にしてくださるのは、と、とても嬉しくて感謝します」
「優しくしていただく度に僕の中の○○さんの存在が膨れ上がって・・・」
「このままだと僕は自分で自分を押さえることが出来なくなりそうで」
「○○さんにはご家族があることは充分に解っているはずなのに」
「だんだん気持ちがはち切れそうになってきて」
「ダメだと解っているはずなのに」
「どうしようもない気持ちがあふれ出してて来て・・・」
「もう、どうすればいいのか解らなくなって、とても苦しいです」
と、目に一杯涙をためて訴えかけてきた
「えっ、あ、あの、私は、そ、そ、そんなつもりで・・・」
「△△くんがね、一人暮らしで頑張っている姿を見て」
「弟のように可愛く思えたものだから」
「ついついお節介なことをしてしまっていたの」
「あの、あの、おち、落ち着いて聞いてね」
「ごめんなさい、△△くんに逆に負担をかけていたのなら、謝ります」
「私って馬鹿なオバサンです」
「自分では良いことをしていたつもりだったの」
「こんなに、あなたに苦しい思いをさせているとは考えもしませんでした」
「本当にダメなオバサンでゴメンナサイ!」
と、いままでにしたことがないくらいに誠心誠意あやまりました
△△くんは少し落ち着きを取り戻したのか
「僕の方こそ変なこと言ってゴメンナサイ!」
と、ペコリと頭を下げてその場を離れて行った

どれくらい放心状態でぼーっと立ち尽くしていたか解らないけれど
しばらくして、また後ろから声がかかった
「○○さん、頼んだ仕事出来た?」
いつの間にか上司がそこに立っていた
「あ、も、もう少しで終わります」
と、慌ててとりつくろったのだけれど
「○○さん、親切な善意のお節介はいいのだけれど」
「ちょっとやりすぎたかな?」
「△△はね、自分だけが優しくしてもらえることに負担を感じてたのだよ」
「○○さんが悪い人じゃないって解っているから」
「ただただ好意を拒否したんじゃ、あんたが傷付くと思って」
「あんなことを必死になって訴えたんだよ、きっと」
「あんなに気を使えるなら、仕事にも生かしてくれるといいんだけれどね」
と、言いながら上司は事務所の方へ戻って行きました




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