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どくはく1「母と夕日に染まったリビング」
小学校1年になりたての頃だった。
窓から差し込む夕日のオレンジに染め上げられたリビングで、私は母へ訴えた。
「おっぱいが飲みたい」
「お母さんのおっぱいが飲みたい」
なぜそんなことを言ったのかは今でもわからない。とにかく、私はそう訴えて、泣きわめいた。
しかし、母は困惑と、少し軽蔑したような表情を浮かべていた。
「何言ってるの、そんなことできるわけないじゃない」
「おっぱいが飲みたい!!」
私は突っ立って泣きじゃくった。母の表情は変わらなかった。
そして、冷たく私を突っぱねて、ため息をついた後に、私が当時よく見ていたポケモン映画のビデオを回し始め、「ほら」と促した。
それで一瞬にして、幼いながら私は悟った。母を困らせてしまった、と。
罪悪感と、羞恥心と、自尊心の傷つき。
私は、「母を困らせてしまったから我慢しなきゃ」と、泣きながら、でも声を殺して、おとなしく座ってビデオを見た。
私は、おっぱいが飲みたいのではなく、母と関わりたかった。なんでもいいから、母に甘えたかった。お母さん、お母さん、と、駆け寄りたかった。どう自分の感情を表現したらいいかわからなかったのだ。
おっぱいが飲めないのはわかっていた、私はもう赤ちゃんじゃないから。
そうじゃなくて、「どうしたの?よしよし」と抱き寄せてほしかった。
母は字義通りにしか受け取れなかった。障害のせいで、「受け取らなかった」のではなく、「受け取れなかった」のだ。
あのとき私は、確かに孤独だった。
母との関わりを、なんとなく抑えた方がいいかもしれないと思った。
あのときの私。
すごく悲しかった。
満たされなかったね。
お母さんに、優しくしてほしかったね。
夕焼けに包まれて泣いた私よ。
もう、いいんだよ。
我慢しなくていいんだよ。
ごめんね、我慢させて。
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