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ロシアの夫婦事情

ロシア統計局の公式データによると、なんと10組に7組の夫婦が離婚するらしい。これは、ポルトガル、スペイン、ルクセンブルクに次ぐ離婚率で、ロシアの後をウクライナ、フィンランド、キューバが追う。

世界中どこでもそうかも知れないが、原因の一つに挙げられるのが晩婚化。ソ連が崩壊した後はしばらくは学生結婚が普通で、学生寮に家族で住んでいる人たちが多かったが、最近は女性もキャリアを積んでから結婚したいとか、自由でいたいとか、なかなか覚悟が決まらないらしい。危機感を抱いたロシア政府が家族主義を全面に押し出し、2024年を「家族年」に指定するなど、さまざまなキャンペーンを展開しているのも理解できる。

とは言え、人にもよるが、離婚後も良い関係を保っている人は多い。知らない幼児を連れている知人に「あれ、この子どこの子?」と聞くと、「前の旦那の子どもよー」と普通に返される。ロシア人のおおらかさに改めて驚く。

離婚と言えば、以前こんなことがあった。

​​ある日、お隣の若いお父さんとアパートのエレベータの前でばったり出くわした。えらく落ち込んでいるので、「大丈夫ですか?」と声をかけたところ、いきなり「僕たち離婚するんです!」と。そして余程辛かったのか、涙しながら堰を切ったように事情を話し出した。

結婚して6年目、29歳の同い年カップルで、奥さんは専業主婦、子どもは5歳の男の子。アパートは彼の所有(ココ重要)。彼は礼儀正しい好青年、どちらかと言うとハンサムの部類で身なりも悪くない。

「僕たちはずっと家庭内別居で、寝室も別だったんです。1年半も! 僕はその間ずっと耐えてた。いろいろ手を尽くしたけど、いつも彼女からダメ出しをされて、もう心が折れてしまった。離婚話を切り出したら、じゃあアパートはもらうわ、と来た。いつもカネ、カネ、カネだ! 僕は普通に愛し、愛されたいんだ!」

奥さんはロシア人ではなく、新体操のカバエワさんと同じカザン出身のタタール人。元々濃いきつめの顔がますます険しくなったのは、なるほど、そういう事情があったのかと妙に納得してしまった。

地方から上京してくる人たちは、モスクワで一旗上げるというアンビシャスな意図を持っているので、モスクワ地元民と比べるとかなり逞しい。女子はモスクワ地元民と結婚することを生存戦略にしているので、結構あざとかったりする(私調べ)。ぽわーんとしている地元男子は狙われやすい。

ついつい夫婦喧嘩は犬も食わないという先人の智慧を忘れ、にわかカウンセラーになってしまった。

「でもさ、アパートをもらうとか、慰謝料とかっておかしくない? だって夫婦の義務を怠ったのは彼女でしょう?」

「そう、彼女にはびた一文渡したくない。でも子供を盾に取られてるんだ…僕は悪いパパなんだってさ。まあいいさ、少し大きくなったらわかってくれると思う(涙)」

その後、奥さんは子どもを連れて実家に帰ってしまい、離婚が成立した。

日本では「夫婦の義務」という言葉は聞き慣れない言葉かもしれないが、ロシアでは明文化されている。曰く、夫婦の義務とは、配偶者を思いやり、基本的なニーズを満たすことによって良い夫婦関係を維持することを目的とした一連の道徳的、感情的、生理学的行動であり、心理学的観点から見ると、夫婦の義務には、尊敬・誠実・責任・気配り・互恵性・忠誠心が含まれると。

この延長線でロシアでは夫婦は一つのベッドで寝るという不文律がある。寝室を別々にした時点でアウトらしい。なので、日本人旅行者の行動はホテル業界関係者から不思議がられる。夫婦だからということでわざわざダブルベットを用意したら、逆にクレームがついて、ツインの部屋に代えて下さいと言われることが多々あるそうだ。


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