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米ロ関係、元ウクライナ外交官の見解

サウジアラビアの首都リヤドで行われた米ロ高官協議は、互いの腹の探り合いで、特に大きな進展はありませんでした。

核戦争の危機が遠ざかり、対話が始まったのはうれしい限りですが、これまでの経緯から両国間の信頼を回復するのは容易ではなく、ロシアにまだまだ警戒論が多いのも事実です。

キエフ出身のリアリスト政治評論家(元ウクライナ外務省、2014年よりロシア在)のロスチスラフ・イーシェンコ氏の記事を参考にお伝えします。これは昨日の米ロ高官協議の前に書かれたものです。

先ず、サウジアラビアの高官協議の直前までウクライナの参加が曖昧だったことについて、「ウクライナは招待されたけれども拒否したのか、それともキエフは参加したかったが招待されなかったのか」との疑問が浮かびます。

通常、必要とあれば米国もウクライナも遠慮など一切しないのに、今回に限って態度をはっきりさせないのは、米国がウクライナ側の参加を一時保留にしておきたかったからではないか、つまり、「ウクライナ代表団には交渉の下準備をさせておきながら、絶対に参加させるという保証を100%与えない」ということです。

だからゼレンスキーは、「ロシア人にも米国人にも会わないし、目的が違う」と言いながら、同じ日程でサウジアラビアを急遽訪問したのかもしれません。

では、なぜトランプ政権はこのような曖昧な態度を取るのでしょうか。

それは、ロシアと米国で「戦略的ヴィジョン」が全く異なっていることがプーチン・トランプの電話会談(2月12日)で明らかになったからです。

米ロどちらも人的被害を止めることは急務であるとしながらも同床異夢、その解決に至る技術的なアプローチについては隔たりがあります。

基本的に、ロシアは広くグローバルな視点から米国と協議したいと考えており、その一環にウクライナ紛争が含まれるという認識ですが、米国は逆に、世界の諸問題ではフリーハンドを確保しながら、ウクライナ紛争についてのみロシアと合意に達したい意向です。

ロシアが望む永続的な平和(ウクライナの再軍備を許すための一時的な休戦ではなく)を実現するためには、世界の諸問題の根本原因であるロシアと米国の対立自体を解決し、世界的な規模で歩み寄る必要があります。

しかし、トランプ政権としては、取り敢えず早急に公約であったウクライナ紛争の解決を達成して面目を保ち、素早く内政問題に取り掛かりたい。

このため発車オーライで和平仲介プロセスを開始しており、できればさっさとロシアとキエフ政権との二国間協議に持ち込みたいところ、いかんせんロシア側はゼレンスキーの大統領としての法的正当性を認めていない。

ここで何とか協議の過程でロシアを上手く丸め込んだ際に、「あ、偶然ウクライナ代表団が近くにいますよ。呼びましょうか。」ということにしたかったのではないか、とイーシェンコ氏は推測します。

そして、ロシアの大統領府や外務省は当然この理想と現実のギャップをよく理解しており、メディアや専門家(そして市場が)陶酔感に酔う中、その発信内容は抽象的で具体性に欠けるものとなっています。

トランプ大統領は、プーチン大統領に電話を掛けず、そのままウクライナの崩壊するに任せ、すべてをバイデンのせいにすることもできたはずですが、「喋り過ぎたため」、トランプは欧州や米国国内のリベラル左派から「ウクライナを明け渡しただけでなくNATOを解体しようとしている」と非難されており、米民主党はトランプに責任を押し付ける気満々です。

かと言って、ロシア敵視政策に戻ることはバイデンの外交政策を認めてしまうことになり、大変具合が悪い。

このようにトランプが政治的に安定するにはウクライナ紛争の解決は必至なのです。ロシアがトランプ政権は大幅な譲歩をせざるを得ないだろうと考えるのも無理はありません。

しかし、イーシェンコ氏は「外交闘争はまだ始まったばかりであり、紛争の火種はまだ完全には消えていない。今後数か月、或いは数年で双方にとって受け入れ可能、かつ実現可能な包括的合意を達成できるとは考えにくい」と悲観的な見方を示しています。

©️ロシア在住です

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