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「ちゃんとした大人」になる:「カモン カモン」感想

社会人5年目。アラサーに差し掛かり、自分の人生や仕事のキャリアについてそろそろ真剣に考え始める。僕が新入社員としていまの会社にやってきたとき、メンターとして指導してくれた先輩の当時の年次をついに上回ってしまった。相変わらず部署ではいちばん下っ端なので誰かを指導することはないけれど、あしたから後輩の面倒を見てくださいと頼まれてもたぶん僕にはムリだと思う。そろそろ育成モードが抜けて期待されるレベルが上ったせいで、むしろ新人のときより怒られている。

こんなはずじゃなかったのになあと思っていたら、「あちこちオードリー」で田村亮が似たようなことを云っていた。若い頃に思い描いていた50のオレはもっとうまく後輩をさばけていたのにと。けっして派手ではないとはいえ浮き沈みの激しい芸能界で生き抜いた男が、テレビ向けかもしれないが愚痴っぽくみずからの情けなさをさらけ出している。さて、おっさんになってもこの苦しみが続くのだとしたら、どこまで頑張ればいいのだろう。アンミカは田村亮の悩みに対して「完璧を求めても人間死ぬまで中途半端だ」と喝破した。たしかにそうかもしれない。最近観た「カモン カモン」もたぶん似たようなことを言っている。

「カモン カモン」は、母の死をキッカケにギクシャクしてしまった妹の子・ジェシーを預かり、しばらく一緒に暮らすことになったおっさんの物語である。マイク・ミルズ監督が子どもを風呂に入れているときに思いついたというこの映画は「ちゃんとした大人」になることを描いている。主人公のジョニーは決してだめな人間ではない。仕事では現場の責任者を任されているし、預かった甥っ子は責任をもって見守る。大人としてやるべきことは果たす。だらしなく生活したり、人を騙して楽をしたり、といったズルを考える人間ではない。それでも、ジョニーは壁にぶち当たる。ジェシーをうまく扱えない。わがままに振り回されてストレスが溜まる。子どもにどんどん時間を奪われていくけど、仕事の量が減るわけではない。うまくいかない。どうしようと混乱して妹に電話する。しまいにはジェシーに少しキツい叱り方をしてしまう。絶対この子にはあわないコミュニケーションの方法だとわかっていたのに。

でも、そんなジョニーの奮闘は愛おしく、そして、カッコいい。床をのたうち回りながらも「ちゃんとした大人」をやっている。この「やっている」は漢字にするなら「演っている」かもしれない。これは決してネガティブな意味ではない。「ちゃんとした大人」になろうとする、一歩ずつ求められる姿に近づいていく。途中で壁にぶつかって方向転換したり、来た道を戻ったりしながらも、前に進んでいく。おっさんになっても一生懸命に生きる姿は輝いている。なんでもテキパキとこなすクールな大人も、もしかしたらその裏で「ちゃんとした大人」になれない葛藤を抱えているのかもしれない。そう考えると、べつに僕はアンミカ教の信者ではないけれど、完璧に生きられる人間などいないのだと、ふと肩の荷が重くなる。そうは言ったってできないことは悔しいし、他人と比べて自分の首を絞める愚行を止めることはできないだろうけど。ちょっとは俯瞰して自分の人生を観察するぐらいの余裕は持てるかもしれない。とにかく「C'mon C'mon」=「前へ、前へ」進むしかない。

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