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日向坂で会いましょう、コント番組へのあゆみ

「日向坂で会いましょう」で二週に渡って放送された「大女優へのあゆみ!今こそ演技力を磨きましょう」は期待を上回る大変すばらしい企画だった。企画プレゼン大会にリモート学力テスト、ぶりっこ選手権と手を変え品を変え大喜利をお届けしてきた当番組。「ひらがな推し」から企画も一周してそろそろ落ち着く頃かしらというタイミングで、満を持してのコント企画の登場だ。これからの外仕事に向けて演技力を磨きましょう…という体でシチュエーション・コメディをメンバーにやってもらう内容となっている。特に後編の「ノーリアクション芝居!」は、台本どおりに進行しつつアドリブ演技の上手さを見るというなかなかに高度な内容。それでも絶対に面白くなるだろうなと思ってしまうのは、この番組に絶対の信頼を寄せているからである。そして実際「第二回ぶりっこ選手権」に並ぶパワフルな回に仕上がっていた。面白すぎて何度も録画を見てしまったので、ひとつずつその内容を振り返っていきたい。わざわざ細かく分析することもないけど、これはもう性格というか直せない癖(へき)なのだ。ご容赦いただきたいと思う。

「即興!キャラ芝居」と「なりきり半沢直樹!」

11月15日放送の前篇は「即興!キャラ芝居」と「なりきり半沢直樹!」の二本立てだった。前者は短い尺の中で即興芝居を打つという、どちらかというとショートコントの趣き。参加メンバーは、加藤史帆、齊藤京子、小坂菜緒、高本彩花、潮紗理菜(11月22日放送の後編で放送)の五名だ。みんな可愛くて面白かった。かとしは常に発想がぶっ飛んでいて、毎回こちらの予想を超えてくる。「重い女」演技もさすがだった。そのあとの齊藤京子の「きょんこにょう」やおたけの「関西弁キャラ」も面白かったけど、僕はなっちょの「お題スルー事件」がお気に入り。自分のミスにハッと気づいたときの表情と「いらっしゃいませ」で強引にねじ伏せる一連の流れのドタバタした動きが、ふだんのおっとりイメージとのギャップを突いてきて、笑いを誘うのである。

また「女優」という観点では、こさかなの「宮田愛萌」モードに、彼女の演技力がグループ屈指であることを改めて認識させられた。やはり憑依させたら小坂菜緒の右に出る者はいないだろう。「DASADA」の佐田ゆりあや「菜緒蔵」のスイッチの切替っぷり、カメレオンのように別人格を表現できる力は侮れないと思う。

「なりきり半沢直樹!」には丹生明里、影山優佳、金村美玖、濱岸ひより、宮田愛萌、佐々木久美が参戦。こちらは一発ギャグに近い。日向坂メンバーの中で「半沢直樹」を見たのが丹生ちゃんと影のたったふたりなのは衝撃的だった。若い女の子はスーツのおじさんが絶叫するドラマなんて見ないらしい。改めて自分がおじさん側の人間であることを突きつけられた気分だ。肝心のネタはというと、半沢視聴組のなりきり度も良かったけど、お美玖、ひよたん、愛萌の三人が知らないなりに頑張る姿もステキだった。そして完全におふざけに振り切るキャプテンも可愛い。なによりですよ。がおひさまであることをあぶり出してくれたのは大きな功績であろう。

ちなみにこれは推測だが、これらの企画にはかなり多くのメンバーが挑み、カットされてしまったのではないかと思う。予告編にあった山口陽世のパートが本編では放送されず、この手の企画なら絶対打席には立つであろう上村ひなの、富田鈴花、渡邉美穂の出番もなかった。特にグループでも抜群の演技力を誇り、自身も女優仕事を目標に掲げている渡邉美穂のコントが見られなかったのは残念だ。いつかまたやってくるであろう次の機会を待つことにしよう。

コメディエンヌの片鱗を見せた丹生明里

「ノーリアクション芝居!」には丹生明里、河田陽菜、加藤史帆の3名が参加。これまでのコント企画で爪痕を残した精鋭たちだ。トップバッターは丹生ちゃん。「ハッピーオーラ」の代名詞とも言うべきメンバーで、キラキラした笑顔と圧倒的な陽のチカラで外仕事を開拓し続けている。その少年のようなキャラクターと「タルタルチキン」事件のイメージから誤解していたけど、彼女はとても頭の回転が速く、いわゆるタレント的な勘や能力が非常に高い人のようだ。加入前から演技の仕事にも関心があったという彼女のコント演技は、そんなポテンシャルの高さを堂々と証明するものになっていた。

まず、彼女はまったく表情を崩さない。ある意味企画の趣旨に忠実に「ノーリアクション」を貫いている。それでいて仕組まれたアクシデントや台本をはみ出した無茶振りにもアジャストし、世界観を崩さないまま、「丹生巡査」としてリアクションを見せているのである。そして自分からネタに走っても絶対に照れたりヘラヘラしたりしない。後述の河田陽菜のようにそういった反応が期待されるメンバーもいるけど、丹生ちゃんはしっかりセオリーを守っている。

そして、アドリブの演技もうまい。たとえば犯行に使われた凶器として差し出されたガムランボール。彼女は真顔でそれを取り出し、田中警部の顔の前でシャラシャラ鳴らす。ちょっと間を開けてひとこと「ガムランボールですね。」と。シュールな笑いを生み出す間合いがとても秀逸で、ふつうに稽古したコントを見ているようだった。これが本当にその場で編み出したものなら相当すごいと思う。それ以外にも「ニブチャ…」と目を合わせてくる死体役・春日とのにらめっこ、からの「DEATH!(首切りジェスチャー)」の軽やかな流れ、勝手に犯人に仕立て上げられて殺しの理由を聞かれたときの「三本ジワ…」の返しとその絶妙な仏頂面など、うまいこと自分のフィールドに引き込んで笑いに変換していた。あくまで「丹生ちゃんは丹生ちゃん」という感じもあるけど、正直、全メンバーのコントの中でいちばんクオリティが高かった。そして何より、天真爛漫に動き回る姿がメチャクチャ可愛いのだ。

フリースタイルで奇跡を起こす河田陽菜

河田陽菜といえば、8月17日放送の「ひな川淳二の怪談ナイト」回の大事故が記憶に新しい。渡邉美穂や加藤史帆など巧者が揃う中、舞台への上がり方を間違えたり、途中でセリフを飛ばしまくったりと、とてつもないポンコツっぷりを発揮し「秋頃だったでしょうか?」という番組屈指の名言まで残した。「B.L.T.2020年12月号」で関谷ディレクターが語るところによると、彼女だけ事前のリハーサルを行わず、あえてぶっつけ本番での化学反応に賭けたらしい。その目論見は見事に当たった。この子はなにも武器を与えず、素手で戦わせると、時にすさまじいパンチを繰り出して他を圧倒してしまう。「ここは勝つしかねぇので」みたいに強烈なパンチラインを計算せずに繰り出せるのが河田陽菜のすごいところだ。

今回のコントでも河田陽菜はその才能をいかんなく発揮していた。突然の無茶振りに笑いをこらえる姿も、警部に怒られてふてくされる演技も良かったけど、やはり面白かったのは天然を極めたアドリブの数々だろう。チョベックの使い方を問われて「ゴマを擦る道具で…」と答え、「石が好きだと思うので、石好きの方と言えば…サザエ・ミサトさんという方が…」と犯人を推理する。そして犯人が銃を構えて「1人殺しても2人殺しても一緒よ!」と叫べば、「変わります!変わります!変わります!」と真顔で返答。最後は警部をかばって殉職である。「ありがとうございました…。」と涙を流し始めたのにはさすがにびっくりしてしまったけど、どうやらその前の警部の「お前がいなくなったら、俺はどうすればいいんだ…?」でスイッチが入ったらしい。こうやって列挙するだけでも相当面白い。感極まって泣いてしまうところも含めて、末っ子力が限界を突破してる。ゴチャゴチャ言ったけど、要するに、メチャクチャ可愛いのだ。

感情の赴くままに暴れる加藤史帆

加藤史帆の感性はあらゆる意味で「野性的」という表現が似合う。こういうことば選びが正しいのかわからないけど、彼女は「クラスに一人はいるすごく面白い子」なのだと思う。お気に入りの先生=オードリー若林にラブコールを送ってみたり、仲のいい友だち=佐々木久美とふざけ合ったり。クラスで盛り上がるときはみんなのテンションを引っ張り上げて、教室の真ん中で全員から注目を浴びるようなカリスマ性もある。そもそも日向坂46自体(それは広く「アイドル」と言って良いかもしれない)が、一体感あるクラスのような空気感を魅力にしているグループだ。ときどきメンバーが口にする「青春」や「部活」ということばも、このイメージに連動するものだろう。たまたま元気のある子たちが集まった「当たりクラス」とでも言えばいいだろうか。彼女たちもプロのタレントだし、番組のスタッフのディレクションを受けながら立ち回る「演者」ではあるが、計算などは抜きにして「楽しんでいる」様もまた非常に印象的なのだ。中でもかとしは、場の空気を読んでうまく前に出たり、他のメンバーにスルーパスを出しつつも、最終的には圧倒的なセンスでゴールにシュートをぶち込んでいく。これはもう「野性的」としか形容しようがない。

今回のコントはそんなかとしの魅力が凝縮されている内容だったと思う。冒頭から進行を無視して死体役の春日のブルーシートを剥ぎ取り、さっそく出オチの機会を破壊。お次は渡された手袋のニオイに絶叫し、それをほらどうぞと言わんばかりに田中警部にも向け、最後は動けない春日の鼻に手袋を近づけて強制的に嗅がせて、彼の胸の上に投げ捨てる。さらにはビリビリペンで驚異的なのけぞりリアクション(よく見るとうしろの警部も派手にずっこけているのが面白い)。ここまでの流れを見てもすべてがグチャグチャだし、ノーリアクション芝居どころか、いつも通りのかとしでしかないのだが、とにかく一つひとつの動作が面白い。どうやったらこんなにドタバタ動けるんだろう。感情の趣くまま、野性的なセンスで街を蹂躙するゴジラのようにバリバリと自分の道を作ってしまう。その後ろには膨大な瓦礫の山と焼け野原である。とにかくすさまじい破壊力だ。

そしてみなさんお待ちかねの若林巻き込みパート。似顔絵(通称「キモ林」)を見て「正恭さん…」とつぶやき(なぜ下の名前なんだ)、高まる気持ちを抑えきれず警部にたしなめられる。ここの「早く会いたい」テロップも秀逸だ。「逮捕してこい!」の命令に思わず「やった~」と声に出してよろこび、最後は若林と手錠でつながったままご満悦の表情で退場。前週の「重い女」ネタはここで見事に回収されることになる。まわりで見ているメンバーが飛んだり跳ねたり大いに盛り上がっているのも見どころだ。こさかなは立ち上がってフレームアウトし、奥の丹生ちゃんはお腹を抱えてうずくまっている。齊藤京子があっけにとられたような表情をしているのも見逃してはならない。僕はこの一連のコントの流れを気に入りすぎて四回ぐらいみてしまった。どこまで台本で、どこからアドリブなのかは知る由もないが、ここ最近の「ひなあい」の中でも指折りの名シーンであることは間違いない。そしてやっぱり、若林にデレるかとしがメチャクチャ可愛いのだ。

アイドルとコント

「日向坂で会いましょう」の見どころといえばメンバーとオードリーの絡みであり、両者のケミストリーあってこその笑いと熱量なのだけど、このコント企画に関してはメンバー自身で笑いを生み出すウェイトが大きかったように思う。「妄想シチュエーション」企画のように春日とメンバーの1 on 1で進めることもできたはずなのにあえてその選択をせず、春日を死体役で塩漬けにして、代わりにプロの俳優(数々のコント企画に出演経験があるらしい)をサポート役に充てるのは面白い試みだった。オードリーが漫才畑の人たちなので、本格的なコント企画をやったときにどうなるかは未知数だけど、たとえばメンバー複数人でコントをやってみたら…とか、それこそコント師のどきどきキャンプがここに入ってきたら…なんていろいろ考えてみたくなる。乃木坂46四期生とさらば青春の光のタッグで成功を収めている「ノギザカスキッツ」のようなコント番組を日向坂46でも見てみたいと願うのは贅沢だろうか。

…なんて妄想をしていたら、ふと、SMAPはとてつもないエリート集団なのだという当たり前の事実に、改めて行き当たることになった。「SMAP × SMAP」ではよくメンバーによるコントが披露されていたし、「慎吾ママ」のような人気キャラクターも番組のコーナーが発祥だった。僕は見ていなかったけどケイマックス制作の『「ぷっ」すま』の「ビビリ王決定戦」はまさしく今回のコント企画の元ネタらしい。歌も、ダンスも、演技も、バラエティも一級品のスター集団。そういう観点でいうと、後輩の嵐や関ジャニ∞も相当すごいタレントの集まりだろう。日本最大級とはいえ、いち音楽レーベルに過ぎないソニー・ミュージックのディレクションと芸能事務所のやり方を簡単には比較できないけれど、ジャニーズ事務所の総合的なプロデュース力、芸能界への根の張り方はさすがと言うほかない。

そしてよくよく考えると、この手のオールマイティなアイドルはほぼジャニーズ出身者が独占していて、女性アイドルで同様の例が浮かばないことにも気づいた。全盛期のモーニング娘もさすがにここまではいかなかったであろう。昔まで遡れば松田聖子や広末涼子、宮沢りえは近いポジションだったかもしれないが、グループアイドルという観点では、おそらく前例がないはずだ。そこには女性アイドルには男性アイドル以上に「若さ」が求められること、もっといえば日本社会に於ける「女性」のジェンダーロールの問題に行き着きそうだが、テーマからだいぶ逸れてきてしまったのでここらへんでやめておこう。要するに、SMAPとは、昨今のアイドル像の原型にして、最も完成された究極のグループだったということである。そして、目指してほしいとは言わないまでも、日向坂46にも、同じぐらい国民に愛されるグループになってほしいと切に願うのであった。

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