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日向坂46 1stアルバム「ひなたざか」は5thシングルへの布石となるか

率直な印象を述べれば日向坂46 1stアルバム「ひなたざか」は「可もなく不可もなく」な作品だった。「キュン」から続くカタカナタイトル路線を踏襲したリード曲「アザトカワイイ」は新鮮味に欠ける。新録曲数も「走り出す瞬間」のボリューム感に比べると物足りない。しかし、日向坂46を知る上で欠かせない楽曲はひと通り収録されているし、アルバム名は「ひらがなけやき」を連想させ、グループのこれまでを振り返るにふさわしい。「Overture」や「日向坂」など音源化されてこなかったレア曲もついに聴けるようになった。日向坂46をあまり知らない人が聴けば広く浅く知るきっかけに、すでに愛している人はよりマニアックに楽しめるよう配慮がなされている。総じてみんなにとっての80満点を狙ったトヨタのクルマみたいな性格を帯びたアルバムなのだ。今回のnoteはそんな1stアルバム「ひなたざか」について感じたこと、それぞれの曲に対する想いを、余すところなく語っていきたいと思う。

直球勝負のType-A、変化球で攻めるType-B

アルバム全体としてはメンバーが各インタビューやラジオで判を押すように語った「ライブのセットリストを意識した構成」がもっとも的確な評価になると思う。盛り上がる曲やじっくり聞かせる曲をまんべんなく散りばめ、一連の流れで聴いたときのテンションの上下まで計算した曲順になっている。

Type-Aは、冒頭で「ドレミソラシド」「この夏をジャムにしよう」「キツネ」と可愛いめの曲を並べつつ、中盤に「ホントの時間」「My god」で切ない片思いの曲を置き、最後は「誰よりも高く跳べ! 2020」「日向坂」「JOYFUL LOVE」で畳み掛けるテンション高めの構成で、通常版とおなじく日向坂46らしさ溢れるセットリストという印象。一方のType-Bは、独特の世界観をもつ曲を多めに盛り込んでいる。3曲目から変化球「ナゼー」を放り込み、中盤に「Cage」「どうして雨だと言ったんだろう?」といったクール系を並べたあと、3rdシングルA面/B面コンビ「川は流れる」「こんなに好きになっちゃっていいの?」でしっとり聴かせ、「青春の馬」「JOYFUL LOVE」で締めくくる。ちょっぴりコアな構成になっているのだ。両者を比較してみると直前に「日向坂」が来るか、それとも「青春の馬」が来るかで大トリ「JOYFUL LOVE」の表情が変わってくるのも面白い。いずれにせよ聴くときはストリーミングサービスを使うので、実際この曲順で流す機会は殆どないのだが。

ちなみに河田陽菜は「日向坂 46×DASADA Fall&Winter Collection」のMCゾーンで「私はType-Bが好き」と語っていた。メンバーからは「自分がジャケ写にいるからでしょ」と突っ込まれていたけど、彼女がType-B収録のテイストの方が好みなのだとしたら、それはそれで興味深い。他のメンバーの感想も訊いてみたいところだ。

1st ~ 4th シングル表題曲を振り返る

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ここからは「ひなたざか」収録曲について一つずつ語っていく。はじめはもちろんシングル表題曲について。これまでリリースされた4枚のシングルはいずれも耳に残るメロディとサビのタイトル連呼、CRE8BOYによる可愛らしい振り付けが軸になっている。いわゆる「バズリ」を狙ったプロデュースであり、AKB48フォロワー的な王道アイドルが基本路線だ。楽曲単体で見たときの薄味さはファンの僕でも思うところはあるのだが、あくまでメンバーの元気いっぱいのパフォーマンスを前提とした作りになっていることは、彼女たちのライブを見れば明らかである。良くも悪くもアイドルソングだと言われたらそれまでだが、欅坂46がデビューシングル「サイレントマジョリティー」からラストシングル「誰がその鐘を鳴らすのか」までの9枚のシングルにおいて、ほぼ毎回音楽として十分に楽しめるクオリティの表題曲を提供されていたのに比べると物足りなさを感じてしまうのは僕だけだろうか。

前置きが長くなってしまったが、さっそく一曲ずつ見ていこう。全タイプ一曲目に収録されている「Overture」はくもり空がパッと晴れて陽の光が大地を照らすイメージ。爽やかながらダイナミックなメロディと弾けるようなみずみずしさは、日向坂46のオープニング曲にふさわしい。1stシングル表題曲「キュン」と2ndシングル表題曲「ドレミソラシド」は日向坂46のパブリックイメージを決定づけた。キャッチーかつハイテンション、恋のはじまりの喜びをうたうこの2曲は、日向坂46の「名刺」といっても過言ではない。「ドレミソラシド」は、恋の初期衝動を音楽のモチーフに乗せつつ、フカヨミもできる奥行きをもたせた歌詞が上手い。パフォーマンスの楽しさを含めて、いまのところこの路線の最高傑作であると思う。「こんなに好きになっちゃっていいの?」は、前2作からアプローチの変更を試みたものの、残念ながらうまくハマらなかった。そのせいか従来の路線に逆戻りした「ソンナコトナイヨ」は、ダイナミックなフォーメーションチェンジと昭和歌謡風のトランペットが面白く、個人的には「ドレミソラシド」と並んで好きな表題曲である。PVで映される渋谷の街並みは、欅坂46のそれとはまた違った顔を見せてくれるので「サイレントマジョリティー」などとカラーの違いを楽しむのもいいかもしれない。

名曲揃いのカップリング曲

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シングルカップリング曲「JOYFUL LOVE」「ときめき草」「キツネ」「ホントの時間」「川は流れる」「青春の馬」の6曲は、ファンの間ではどれも表題曲並み、あるいはそれ以上に人気が高い。表題曲は統一感が意識されているが、全員選抜のカップリング曲は毎回異なるカラーを楽しめる。特に「JOYFUL LOVE」は日向坂46名義の曲の中でもトップクラスの評価を得ている。僕自身はそれほど好きではないのだけど、ライブの最後に締めのお茶漬け感覚で流し込むといい感じに沁みる。「キツネ」は狙いすぎでダサさはあるものの、「HINATAZAKA46 Live Online Yes! With YOU!」のキツネvsタヌキ対決のパフォーマンスをきっかけに惚れ直した。いずれも曲単体に面白みは感じないが、ライブでの爆発力とポテンシャルがすさまじい曲であることは間違いない。「ときめき草」は「日向坂で会いましょう」オープニングでもおなじみ。イントロだけで言ったらアルバム収録曲の中でもトップだと思う。ポップな曲調に反してシリアスめの歌詞のギャップが面白い一方、サビの盛り上がりに欠けるのが残念だ。

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だって現国の授業中は ゆっくりと針が進むし
もったいぶったように 早くなったり遅くなったりいい加減

「ホントの時間」はサビ後半の歌詞がお気に入り。僕も高校生の頃同じことを思っていた。「女子高生が溢れているラッシュアワーなのに(「アザトカワイイ」)」とかいう加齢臭全開のフレーズとは雲泥の差があるだろう。つかみの口笛も可愛らしく、全体的にすっきりと透き通るような雰囲気で、表題曲とは違った「日向坂46らしさ」にあふれていると思う。ミュージックビデオのロケ地が海浜幕張のなにもない普通の歩道橋なのが地味に面白い。

おなじく3rdシングルカップリング曲「川は流れる」には他のどの楽曲にもない独特のオーラが漂っている。単体で完成された作品になっていて、従来の日向坂46とも、その前進であるけやき坂46とも違うカラーを押し出しているのが素晴らしい。「地球は回ってるんだ」とか「命は確かに叫んでいるんだ」なんてフレーズが出てくる曲はこれぐらいなものだろうと思う。大自然を流れる澄んだ川のように上品で、ただ元気で可愛いだけではない日向坂46のもうひとつの顔を引き出した点で大成功だ。個人的にはステイホーム期間中、唯一の外出でランニングしていたとき繰り返し聴き込んだ曲なので思い出深い。流すたびに当時の鬱屈とした感情と浄化されるような清々しさが同時に心のなかになだれ込んできて、不思議な幸福感を覚えてしまう。

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「青春の馬」は日向坂46名義の楽曲の中ではトップクラスに好きだ。もちろんきっかけは「DASADA」と「3年目のデビュー」。映画の感想は過去の記事でも書いているけど、初恋キュンキュン路線とは異なるアプローチから「日向坂46とは?」を引き出すような力を秘めている作品だと思う。TAKAHIROによる振り付けもパワフルだし、濱岸ひよりの復帰を祝福するセンターとのペアダンスも最高にエモーショナルだ。2月の「日向坂46×DASADA LIVE & FASHION SHOW」では喜びや不安を抱えながら「センター・金村美玖」と踊っていた彼女が、先日の「日向坂46×DASADA Fall&Winter Collection」では「センター・小坂菜緒」と手をつなぎ笑顔で踊っていた。その姿にこの9ヶ月のみんなの成長を実感して心動かされたファンも多かったのではないだろうか。「青春の馬」はさまざまなドラマを吸収しながら、今後も「成長」していく曲なのだと思う。

日向坂46を多角的に切り取るユニット曲たち

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期生曲やユニット曲は全員参加曲とは異なる角度で日向坂46を照らし、グループ全体に奥行きをもたらしている。佐々木久美センターの一期生曲「My god」はユニエアのライブ映像ではじめて本格的に聴いた作品。イントロの手の振り付けが可愛らしくてお気に入り。二期生&三期生曲は金村美玖センターの「Dash&Rush」が選ばれている。メンバー構成的には「君のため何ができるだろう」も同格のはずだけど、ファン人気は前者のほうが高いのだろうか。ちょっぴり昔のアニメソングを思い出すテイストだが、歌詞はアイドルを目指す主人公がオーディションに挑み、その熱意を叫ぶストーリーを描いている。「戦友」として横並びで不遇の時代を生き抜いてきた叩き上げの一期生に対して、「けやき坂46」の未来を担うスターとして鳴り物入りで加入し、ときに競争意識を覗かせてきた二期生(「セルフ Documentary of 日向坂46」#2宮田愛萌、#4渡邉美穂インタビュー参照)のカラーがうまい具合に表現されていると思う。負けず嫌いで荒々しいパフォーマンスをさせたらめっぽう強い金村美玖がセンターなのも納得だ。

ユニット曲は4曲収録されている。「Footsteps」は加藤史帆(CanCam)、佐々木久美(Ray)、佐々木美玲(non-no)、小坂菜緒(Seventeen)、高本彩花(JJ)のファッション誌専属モデル組で構成されている。おたけ推しとしては高本彩花センターのこの曲は外せないが、正直アルバムの中だとインパクトも薄く、地味かもしれない。ちなみに齊藤京子(ar)と金村美玖(bis)もそれぞれモデルを務めているが、シングル(「キュン」)リリース後のレギュラーモデル就任のため、ユニットには参加していない。個人的にはこのモデルメンツにひよたんこと濱岸ひよりが入ってほしいなと思う。

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「まさか 偶然…」は「花ちゃんず」の松田好花と富田鈴花によるデュエット。多彩ゆえに器用貧乏の一面もあるふたりだけど、このようにしっとり聴かせる歌を任せられるのは、パフォーマンスの評価が高いからこそだろう。ちゃんとアルバムに収録されているのもうれしい。

「Cage」は東村芽依、金村美玖、河田陽菜、丹生明里によるユニット。鳥かごの中から空の自由を羨む「僕」の物語を歌う。最年少の金村美玖がいちばんお姉さんに見えてしまうゆるふわ系個性派メンツが、このシリアスかつエモーショナルな楽曲をパフォーマンスするギャップに魅力がある。特に東村芽依の力強いダンスと河田陽菜の儚げな佇まいは、ふだんの癒やしオーラとのギャップゆえに強烈な印象を残した。このふたりに松田好花を加えたユニット「FACTORY」による楽曲「ナゼー」はまた少し異なるテイストだ。ドラマ「DASADA」での立ち位置を見ても明らかな通り「Perfume」を意識している。そう考えると松田好花=のっち、東村芽依=あ~ちゃん、河田陽菜=かしゆかのようにも見えてくる。

あとワガママを言えば「ママのドレス」もアルバムに入れてほしかった。けやき坂46時代に「沈黙した恋人よ」「ハロウィンのかぼちゃが割れた」に参加したユニット「りまちゃんちっく(潮紗理菜、加藤史帆、齊藤京子、佐々木久美、高本彩花)」のメンバーによる楽曲だ。恋人時代の両親をうたう歌詞に「遺伝子」というワードを選ぶ秋元康のセンスには辟易するものの、「ウエスト・サイド・ストーリー」を思わせるミュージカル風の世界観がなんともキュートだ。けやき坂46時代も含めてこのユニットの曲はどれも名曲だと思う。

けやき坂46名義曲の高い壁

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「ひなたざか」では、日向坂46デビュー以降の曲だけでなく、けやき坂46名義曲の新録バージョンとして「誰よりも高く跳べ! 2020」「NO WAR in the future 2020」 「約束の卵 2020」の3曲を収録している。どれも日向坂46がいまのカラーを形成していく上で重要な役割を果たしてきた。こういった曲をライブで披露し、観客とのコミュニケーションの中でじっくり育てた結果が、いまの彼女たちの強みにつながっているのだろう。新録バージョンは「走り出す瞬間」収録の音源と聴き比べてみると荒っぽい角が取れて、全体的に丸みを帯びた印象。メンバーの歌唱力が向上したことに加え、メンバーが増えたことで声に厚みが増したことは確かだ。かなり聞きやすくなったと思う。3曲とも非常に人気が高く、下手したら大多数の日向坂46名義曲はこれらの力強さに追いつけていない。数あるけやき坂46名義曲の中でも選りすぐりの作品なので、当たり前といえば当たり前だけど、ライブでこれらを超えて盛り上がる曲があまりないのも寂しかったりする。

「期待していない自分」はみーぱんセンターのカッコよさが余すところなく発揮されていて大好きなのだけど、残念ながら「走り出す瞬間」リード曲なので今回は収録されていない。しかし、「誰よりも高く跳べ! 2020」「NO WAR in the future 2020」 「約束の卵 2020」を選ぶんだったら「黒い羊」カップリング曲の「ハッピーオーラ」も入れてよかったと思うのだが、なぜ今回外したのだろうか。ある意味で「キュン」から続く日向坂46の先祖的作品だし、3曲と並んでライブの盛り上げを担う曲だ。この采配に関しては僕自身あまり納得がいっていない。

5thシングルへの可能性

最後に「ひなたざか」収録の新曲5曲の感想をまとめつつ、5thシングルへの展望を探ってみよう。リード曲「アザトカワイイ」についてはすでに過去のnoteでMV考察とともにファーストインプレッションを書き残しているが、歌番組や配信ライブでのステージパフォーマンス、ひなリハのリハーサル風景などを見るうちに若干印象が変わった。音楽性はともかく、フォーメーションや振り付けに関してはやはり「いまの日向坂46」の魅力が最大限発揮される仕掛けになっていると思う。見た目のキュートさに反して全身をフルに使うハードな踊り、ノールックの移動を要求されるフォーメーションチェンジ。それから引きで見たときの全体のダイナミックさと、寄りで各メンバーがアレンジする余地を残した「アザトカワイイ」ポーズのパートの芸の細かさ。必ずどのメンバーも前に出る時間があるのも良い。

三期生曲「この夏をジャムにしよう」はいまの彼女たちにしか出せないフレッシュな魅力が詰まっている。新録曲の中ではトップクラスに歌詞がいい(他があまりに無残とも言える)。甘酸っぱい夏のひと恋の思い出をジャムに仮託し、いまを楽しみ過去にこだわらない女の子のあっけらかんとした態度を「ガラスの瓶」に詰めて「冷蔵庫に入れよう」と表現するのは面白い。次から次へと男を渡り歩く女の子像はあまりに「おニャン子」的で古いし、こんな歌を16歳の高校生に渡すのもどうかと思うが、三期生の幼さ残るパフォーマンスで救われている。「日向坂で会いましょう」で披露されたスタジオライブを見ると、キャリアを積んだ上村ひなのの「見せるテクニック」は圧倒的だし、高橋未来虹の弾ける笑顔とメランコリックな憂い顔の振れ幅は可能性を感じた。森本茉莉と山口陽世にはまだ硬さがあったが、今後の進化に期待である。

一部音楽オタク界隈で「bad guy歌謡」というなんとも底意地の悪い揶揄をされていた「My fans」「アザトカワイイ」同様にライブ映えするタイプの曲だと思う。9月30日放送の「テレ東音楽祭」で初披露されたそのパフォーマンスでは、これまでにない日向坂46のダークな一面を垣間見ることができた。東村芽依がセンターになって踊るパートが長めに用意されていたり、サビ部分ではみーぱんこと佐々木美玲が「アザトカワイイ」とは真逆のオーラで曲全体を支配したりと、見どころが多い。「日向坂 46×DASADA Fall&Winter Collection」では間奏部分のラップも披露された。ファンとの関係性を少々上から目線で表現したその歌詞を秋元康が書いているのかと思うと腹が立つが、せっかくのアルバムだし新しい領域でジャブを打ってみようという制作チームのチャレンジ精神を感じて嫌いになれない。どうやらメンバーには「カッコいい」と評判がいいらしい。もともと欅坂46に憧れてアイドルの世界の門を叩いた子が多いからであろうか、「青春の馬」といいクール寄りの楽曲の方がメンバー受けは良い気がする。MVがないのがとても残念だ。

「どうして雨だと言ったんだろう?」は、歌唱力、ダンスともに日向坂46のパフォーマンスの要とも言える「きずなーず」の3人(加藤史帆、齊藤京子、佐々木美玲)によるユニット曲。タイトルが発表されたときはバラード調の楽曲を予想していたが、じっさいは少し前の戦隊ヒーローシリーズのテーマ曲のような雰囲気だった。女性ボーカルにしては低音で、歌唱力が高くないとしっかり歌いきれないと思う。「なおみく」コンビこと小坂菜緒と金村美玖の「See Through」もクール系で攻めてきた。無機質でロボット風の歌い方、感情を表に出さずあえて平坦な表情で惹きつける振り付けはWinkの「淋しい熱帯魚」を思い出す。あまりに似ているので寄せるようオーダーがあったのではないかと邪推したくなる。こなさなもお美玖もかわいい系の表題曲では見せない、キリッとした眼差しもまたグッと来てしまう。

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こうやって振り返ってみると「ひなたざか」収録曲はこれまでの正統派「初恋」路線とは、打って変わってクール系の楽曲に多くチャレンジしているように思う。これらはすべて次を見据えた観測気球なのではないか。4thシングルのカップリング曲「青春の馬」の評価が高かったことと無関係でないだろう。乃木坂46が4thシングル「制服のマネキン」でその方向性を決定づけ、6thシングル「ガールズルール」でセンターを交代したように、タイミング的にはそろそろ日向坂46が新しい一面を出すことに挑戦してもおかしくはない。平手友梨奈脱退後の秋元康の関心がテレビ企画に移ってしまい、アイドル運営にさしたる情熱を捧げていないように見えるのが心配ではあるが、早ければ来年春にはリリースされるであろう5thシングルには力拳握りしめて歌う応援歌がくると予想する。あるいは「Route246」というイーファスピッチが放り込まれた経緯を踏まえ、K-POP風のカラフルなセンスを秋元康エッセンスでコーティングした壮絶な珍味が来ると妄想してみてもいいかもしれない。いずれにせよいちファンの妄想でしかないが、そろそろ新しい風を吹かせないと欅坂46の「僕」路線の二の舞になりかねないし、グループ全体の賞味期限を短くすることにもなりかねない。そしてみーぱんの再登板を経て、日向坂46第二章のスターターとしてセンターを担うのに相応しいのは、絶賛売出し中の金村美玖だと断言してしまうのは、さすがに勢いが良すぎるだろうか。

「永遠の白線」のその先に

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今回はじめて音源が収録されることになった「日向坂」は、グループ名を冠したタイトルの通り、日向坂46がデビューに至るまでの道のりを歌っている。その歌詞には、

ちょっと遠回りをして どうにかここまでやって来た
いつも日陰だったけど

など、けやき坂46時代の苦難を意識した表現が多い。「日向坂46デビューカウントダウンライブ!!in 横浜アリーナ」で披露した当時の状況には当てはまっていたかもしれないが、正直曲の鮮度は落ちてしまっていると思う。延期になってしまったとはいえ「約束の卵」でうたわれた東京ドーム公演もすでに決まっている。少なくとも日向坂46の「いま」を歌っている曲ではない。

そこで作られたのが「ただがむしゃらに」だ。「制服を脱ぐその日まで」というサビのフレーズからも分かる通り、いずれやってくる別れを意識した歌である。曲調もどことなく寂しげで卒業ソングを連想させるが、日向坂46の「泥臭さ」がほどよく散りばめられている。夕日が似合いそうな歌だ。「日向坂 46×DASADA Fall&Winter Collection」では振り付けも見ることができたが、思ったよりしっかり動きがあった。この曲は「約束の卵」の次を見据えたアンセムとして今後磨きがかけられていくことだろう。まだみんな若いとはいえ、いまは主力として活躍する一期生もいつかは羽ばたいていく。日向坂46の第二章は、ゆるやかに短くなっていく「永遠の白線」と向き合い、「ただがむしゃらに」「約束の卵」のその先を見つけていく旅路とともにあるのだと思う。

授業が終わったら 制服を脱ぎ捨てるように 
さあ外に出て 新しい世界を探そう

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