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【読者】「生きがい」を見つけた人

「国民的ベストセラー」というのが
いつの時代にもあります。

フランクル『夜と霧』や
神谷美恵子『生きがいについて』
吉川英治『宮本武蔵』などなど。

「生きがい」という言葉が
一般的に広まったのは、戦後でした。
それまではなかった、というのが
まずビックリさせられますが。

きっかけは『生きがいについて』
という著書がベストセラーになったから。
1966年のことでした。

今は「生きがい」なんて、
まっすぐピュアな言葉は、なんだか
照れくさい位になりましたね。
本当に、言葉をめぐる人の態度も
変われば変わるものです。

『生きがいについて』を書いた
神谷美恵子さんは、戦前に医学を学び
渡米までした、今で言う精神科医でした。

戦後は、A級戦犯の大川周明の
精神鑑定に立ち合ったり、
ローマ皇帝マルクス・アウレリウス
『自省録』を翻訳したり、
当時まだ皇太子妃だった美智子さまの
日々の相談役に抜擢されるなど、
さまざまな意味で教養人でした。
それから、神谷さんといえば、
ハンセン氏病患者のメンタル面の荒廃に
目を向け、改善に取り組んだ人として
歴史に刻まれていますね。

神谷美恵子さんは
常に不安でどうしたら良いか
悩みあぐねる人のそばにいた人でした。
そんな生涯を送ったからこそ、
『生きがい』の存在と大切さに
いち早く気付いたのかもしれません。

『生きがいについて』は今読んでも、
中身も言葉使いも古びてはいません。
「これ、最近出たんだってえ」と
知人にウソをついて勧めても、
きっと違和感なく信じてしまいそうな。

というか、むしろ、
幸福ということについて考える
基礎的な素材と考え方が披露された、
あまりに原点にたち返った
とても読みやすい本です。
ずっと読者と連れ添うように
書き進められているのが特徴です。

今のビジネス書や自己啓発書は、
私が秘訣を教えましょう、
生き方を伝授しましょう、
あなたの人生を変えましょうと、
図々しいスタンスが目立つのとは正反対。
それは、まだ日本や世界が「博愛」を
ピュアに信じていた時代だったから
かもしれません。

今は生き残る武器やテクニックなどが
ベストセラーになりやすい時代。
50年後にこれらを読み返す未来人は
私たちがいかに愛や真理を信じて
いなかったかと呆れるかもしれない。




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