【ヘッセ、カフカ】ドイツ文学の翻訳に匂うナチス宣伝者の罪悪感
これは50代以上の人しか
ピンと来ないかもしれませんが、
20年前、30年前の
アメリカ文学の多くは、
戦前からのアメリカ文学の
研究者・大久保康雄さんが
訳をしていました。
ヘミングウェイは『老人と海』
『武器よさらば』等ほとんどが、
大久保康雄の訳でしたし、
マーガレット・ミッチェル
『風と共に去りぬ』
ヘンリー・ミラー『北回帰線』や
ナボコフ『ロリータ』なども
大久保康雄さんの文章で普及しました。
最近は、上記に書いた作品はみな
今の翻訳家が訳し直していて、
ここ数年は、再翻訳のラッシュが
続いています。
大久保さんは1905~1987年。
今の最新の研究からしたら、
誤訳がいくつもあるらしい。
だから、改訳は必要な訳ですが、
大久保さんは「文学」として
情緒を文に表すのが上手でした。
作家に忠実ではないけれど(笑)、
読み手には読みやすい
文章、文体でした。
レイモンド・チャンドラーを
訳した字幕ライター清水俊二さんも、
自由に超訳していたそうだけど、
文体がダンディでしたね。
ところで、私がどうしても
新しく翻訳をし直してほしい
海外作家が一人います。
ドイツ作家ヘルマン・ヘッセです。
彼の作品のほとんどは
新潮文庫に入っているけれど、
それらを翻訳したのは、高橋健二。
この人の文章は下手だなあと思って、
もう何十年にもなりますが、
この高橋という文学者を調べると
戦中の日本とナチスとの蜜月時代、
ナチス関連の本や書類を
先頭きって翻訳していたのが、
東京大学ドイツ文学科の一番手の
教授であった彼なのです。
彼の日本語はなぜか、私の頭には
スムーズに頭に入ってきません、涙。
それはヘッセのせいなのか、
訳者・高橋健二のせいなのか?
でも、ヘッセの本で他の訳者の
本を読むと頭に入ってくるので、
新潮文庫や岩波文庫の
高橋健二訳が自分にはうさん臭く
感じて合わないんだとわかりました。
高橋健二はナチス独裁時代の前から
ヘッセと交流があって、
翻訳も数冊していましたが、
戦後は、もう戦争責任の矛先をかわす
ために猛烈にヘッセの訳業に
まい進していきました。
ヒューマニズムを高らかに
謳いたい翻訳家の狙いが、
ヘッセ文学を薄っぺらい
浅いものにしてるような気が…!
実際、20世紀ドイツ文学は、
その翻訳者がどんな「背骨」をもって
仕事をしていたか?
個々の作品に関して訳者の背景を
調べてみるのも重要かもしれません。
ちなみに、同時期にドイツ文学にいて、
イケイケな高橋健二とは反対に、
戦争にもナチスにもずっと反対し続けた
ドイツ文学者・竹山道雄はそうとう
苦境に立たされました。
その苦しみは戦後に書かれた
『ビルマの竪琴』に結実したのかも
しれませんね。
同じ時期にドイツ文学者として
カフカ『変身』などを訳した高橋義孝も
ナチスを紹介する仕事をしていました。
なお、カフカは結核で1924年に
逝去しましたが、ユダヤ人だったため、
その家族や友人は1930年代、
台頭したナチスの犠牲となりました。
そんな彼らの悲劇のことまでを
心を痛めながらカフカの翻訳に
当たったのは、一昨年他界した
池内了(おさむ)が最初だったでしょうか。