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【東野圭吾】作家と文学賞との理想的な関係は?
作家と、文学賞選考委員会との
理想的な関係とは?
すぐ思い出すのは東野圭吾と直木賞です。
東野圭吾がデビューした時は、
松本清張や江戸川乱歩ら、
当時のミステリー作家は、
非常に文学性の高い作品を
志向していました。
そこへ、若くて理系出身で
文章が端的で分かりやすい作家が
『放課後』という学園ミステリーで
デビューしました。
爽やかな青春を舞台にした
理科の知識を使ったトリックが
また新鮮でした。
『放課後』『魔球』などです。
その後もマンネリ化する事なく、
さまざまな種類のアイデアで、
ファンを虜にしていきました。
アイデアの若さ、新しさ、
文章のシンプルさ、親しみ易さ、
乱歩のオドロオドロしさや
松本清張のような暗さとは無縁で
エンタメとして楽しめました。
ちょうど19世紀末、
ロンドンが都会に発達した頃、
古い貴族の伝統や文化に縛られずに
楽しめるドイルズのホームズものが
歓迎されたように。
東野圭吾は、さらに
どんどん作品の重厚さも備え、
次第に直木賞候補になるように。
最初に直木賞ノミネートされたのは
1999年『手紙』でした。
ここから、東野作品は、
ノミネートの常連になっていきます。
しかし、時の選考委員は
「文学性」や「テーマの深さ」を
求め、東野圭吾を何回も落選させる。
東野圭吾は文学ではない、
東野はたかが理系トリックが
上手いに過ぎない、と。
東野圭吾の魂に俄然、火がついた。
絶対に次は直木賞をとるんだ、と。
しかし、選考委員会は選考委員会で、
なかなか、落選させ続けました。
「東野圭吾VS直木賞選考委員会」の
火花は、世間でも注目を集めてました。
東野の作品はあの頃、
1作毎に挑戦的だった。
どんどん面白く、かつ深くなった。
『白夜行』では
東野圭吾が直木賞に最有力候補と
期待されましたが、落選します。
その後も、東野の発表する作品は
ヒットし続け、
直木賞にノミネートされ続けます。
2000年『白夜行』
2001年、『片想い』
2003年、『手紙』
2004年、『幻夜』。
でも、受賞には至らない。
いやあ、東野圭吾の、
選考委員会を絶対にギャフンと
言わせるぞという強い執念が
何年間もピンと張り詰めていた頃、
ミステリー界は
実に賑やかだった。
そうして、ガリレオシリーズの
『容疑者Xの献身』では、
選考委員会もさすがに東野に
軍配をあげざるを得なかった。
2006年、やっと直木賞に!!
その後、東野は、
それまでの戦いの中で身につけた、
屈指の人物造形と推理トリックを
自在に駆使しながら、
人情物(加賀シリーズ)や、
キャラクター物(ガリレオ)など
人気作を繰り出していきました。
振り返れば、
選考委員会とデッドヒートを
繰り広げた頃は、
次は何路線で来るか?
次はどんなトリックか?
東野圭吾はファンの一手先を行った。
今は、アタるツボやパターンを
きちんと押さえすぎて、
初期中期の瑞々しさがない。
仕方ないか。
東野圭吾だって年はとる…。
それにしても、
『白夜行』『秘密』『手紙』
『悪意』などに宿る
力強さと構成の見事さは、
直木賞選考委員会との
「決闘」期の賜物だったように
思えてなりません。