【随筆】エッセイの源流① ~椎名誠と群ようこがくれたもの~
今『インドで考えたこと』(岩波新書)
というエッセイ本を読んでます。
作者は堀田善衛。1957年発刊。
わりと読みやすい文明論であり、
アジア紀行エッセイです。
エッセイスト・椎名誠はこれを本歌として
『インドでわしも考えた』を出します。
1984年発刊。今は小学館文庫。
堀田さんは日本の知識人として
インドで様々なことを考えましたが、
椎名誠は知識人としてではなく、
蛮カラで男くさく、逞しい感性で
色んな事を考えました。
ところで、椎名誠のデビューの衝撃は、
昨今の燃殻さんやカツセマサヒコさんの
比ではありませんでした。
椎名誠は、1979年、
『さらば国分寺書店のオババ』で
怒りとユーモアの持ち主として
トガりまくったエッセイを出し
一気に人気者になります。
国鉄に、蕎麦屋に、本屋に、
あちこちにモノ申すトンガリ男。
正論で的を射ているのに、
ギャグのように笑える
爆笑エッセイの書き手でした。
一方、椎名誠のインド本の2年後、
1986年、エッセイスト沢木耕太郎が
『深夜特急』を出します。
香港からバンコク、デリー、トルコを経て
ロンドンまでバスで向かう紀行文。
沢木さんは椎名誠とは違って、
良い意味で「キザ」な書き手で、
どこか文学的な気配も。
その「気取り」はアメリカ由来の
ニュージャーナリズムの旗手として
デビューした沢木さんだから
許された特権だったような。
この時代に本にハマった人は
椎名誠みたいな男くさい蛮カラ風か?
沢木耕太郎みたいな繊細なインテリ風か?
どっちかを目指している感じでした。
忘れてならないのは
椎名誠に強く背中を押されるカタチで
デビューしたのが、群ようこさん。
椎名とその仲間が作った会社
「本の雑誌社」で事務員をしていて、
そこから1984年、エッセイ集を
発行することに。
群ようこも、デビュー当時は、
今と違ってトンガっていました。
群ようこがデビューしたのは
椎名誠や沢野ひとしらの応援もありますが、
群さんの日大芸術学部の1年先輩の
林真理子がその2年前、1982年に
エッセイ・デビューしたことも
支えになったようです。
椎名誠と群ようこの出現によって
個人の生々しい感覚と意見で、
世の中にモノ申すエッセイが
市民権を得るようになりました。
そして、2人のエッセイに感銘を受けた
読者の中に、これなら自分も
いつかエッセイストになれるのか?
と思わせる不思議な「魔力」がありました。
沢木耕太郎や林真理子のような
文学的な感性に基づくエッセイでは
こうした憧れは起きなかったでしょう。
椎名誠と群ようこの活躍の
最大の成果は、
みんなエッセイストになれるぞ!
と、思わせてくれたことかもしれません。
市民的に生きる延長線上でエッセイを書く
という離れ技を見せてくれたのです。