今を生きる

「人生は短い」というが、震災以降あらためて「生きる」ということの意味を考えることが多い。2012年3月には被災者のために会津鶴ヶ城で初めてのプロジェクションマッピングをやらせて頂き、2013年以降、アメリカのオーステインで開催される世界最大の音楽、映画、インタラクティブの祭典であるSXSWに毎年出展し、今年も福島県の支援を頂き信州大学と共同研究している「人工知能を使った唾液による癌の早期発見システム」で4年連続出展することになった。また1月2日の22時からNHK BS1スペシャルで放送される「シリコンバレー戦国時代」という番組で、今取り組んでいるFUKUSHIMA Wheelというスマートシティ向けのシェアサイクルを通した震災復興プロジェクトであり、福島からシリコンバレーそして世界に対する挑戦が取り上げられることになり、今年もとてもめまぐるしい一年だった。
NHKの番組「スーパープレゼンテーション」でも広く知られるようになった世界的に著名な人々が広める価値のあるアイデアを語る講演会、TED(テクノロジ、エンターティメント、デザインの頭文字)はみなさんご存知だろうか?ちなみに神戸で今年の5月に開催されたその地方版であるTEDxKobeでは、私もお話しさせて頂くという大変光栄な機会を頂いた(http://tedxkobe.com/speaker/speaker0028/)。数あるTEDのトークの中でもMITメディアラボ所長の伊藤穰一の「革新的なことをしたいなら「ナウイスト」になろう」は特にお気に入りのトークであり、福島のために活動をしているNPOのSafecastの活動なども紹介されており、福島の方々にもインターネットで公開されているトークをぜひ観て頂きたいと思う。
インターネットが無かった時代は、物事はシンプルですべてがユークリッド幾何学的、ニュートン力学的でそれなりに予測可能だったが、その後インターネットが登場し、世界は極めて複雑になり、低コスト・高速化が一気に加速し、私たちがこれまで信奉してきたニュートンの法則は万能ではないことが明らかになった。また911や311そしてISISなど、認識論学者のナシーム・ニコラス・タレブの言うところの事前にほとんど予想できず、起きた時の衝撃が大きい事象であるブラックスワンが起こり続け、世の中は非常に混沌としている。そういう不確実性の時代にどう生きるのかという問いに伊藤穰一は「地図を捨ててコンパスを持て」と言っている。
つまりこれは世界の地図が常に書き換わっている時代にあらかじめ描かれた地図を頼りにするのは非常に危険であり、地図より行きたい方角が分かるコンパスを頼りに、つどつど周りに道を聞きながら行くべきであるということである。幸運なことに、どんなに世界が複雑でもやるべきことは単純で、すべてを計画し、すべてを揃えなければ、などと考えるのはそろそろやめにして、つながることに力を注ぎ、常に学び続けアンテナを高くし、「今」に集中すべきということである。今の福島に必要なのはまさに今に集中し、今を生きることではないだろうか。

*2015年の福島民報の民報サロンに掲載された記事です。


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