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#18 理学療法士の中国リハビリ記録【子供部屋づくり!デザインから組み立てまで】

笑顔で満たされるリハビリ室

僕のいる南京市のリハビリ施設には子供用のリハビリ室がなかった。大人用の並行棒やベッドでリハビリをするのが限界があった。

子供用リハ室が必要だとの声が増え、僕がデザインを担当することになった。正直、前向きに『はい』とは言えない役割だった。

不安の中のスタート

子供たちにとって、この部屋が安心で楽しい場所になるだろうか?初めて設計に携わる僕にとって、全てが手探りだった。

どんな物品を選べばいいのか、どんな配置が子供たちにとって安全で効果的なのか。その道筋が見えず、途方に暮れる日もあった。

そんな中、同僚や職場の仲間が手を差し伸べてくれた。「まずはイメージを形にすることから始めよう」とアドバイスを受け、僕はインターネットでさまざまな子供向けリハビリ室の写真を調べた。

そう言えば、20年ほど前……僕が初めて担当したのは筋ジストロフィー患者さんだった。難病を抱える子供たちと過ごしたリハ室の雰囲気を思い浮かべながら、僕は子供部屋の青写真を少しずつ描いていった。

優しい色合いの壁、柔らかいクッション、楽しそうに遊ぶ子供たちの姿。それらを参考にしながら、僕は少しずつ自分のアイデアをノートに描き始めた。

作業開始時のラフノート。素人丸出しで、見るに値しないほど稚拙だ。

物品選びと仲間の力

設計図をもとに、部屋に必要な物品を選ぶ段階に進んだ。

僕一人ではどうしていいかわからなかったが、仲間が『この平均台は丈夫でカラフルだからいいんじゃない?』と提案してくれたり、『このクッションなら子供たちが飛び込んでも安心だよ』とアドバイスをくれたりして、次第に形が見えてきた。

物品が決まると、いよいよ搬入や組み立ての作業に取り掛かった。

重たい荷物を運んだり、細かな配置を決めたりするのは予想以上に大変だったが、みんなで声を掛け合いながら進める作業には不思議な達成感があった。

仲間のサポートがなければ、この仕事は到底やり遂げられなかっただろう。

どこから手をつければいいのか。ひとりなら途方に暮れていただろう。

職人さんとの連携

次に、壁や床の仕上げを依頼する職人さんと相談を重ねた。明るく清潔感のある雰囲気を目指し、壁は子供たちが安心できる青や緑を基調にした。

動物や自然のステッカーを貼って、遊び場のような楽しさも演出してみた。床には柔らかいクッション材を敷き詰め、転倒の衝撃を和らげる工夫を施した。

「師傅(職人の一般名称)、床材をもう少し柔かい素材にしてもらえませんか?」

僕の曖昧なリクエストにも、職人さんは真剣に耳を傾けてくれた。ぶっきらぼうだけど、仕事が早い。だからこそ、僕はさらに細部にこだわることができた。

職人さんはたった二人だが、見事なチームワークと職人技。
その仕事ぶりに目が釘付けになった。

完成と安堵の瞬間

数週間の作業を経て、ついに子供リハビリ室が完成した。これまで一般のリハ室でリハビリしていた子供たちが訪れた。

子供たちは部屋に入るなり、クッションに向かって勢いよく飛び込んでいった。その姿を見た瞬間、僕は思わず深く息を吐き出した。これまでの不安が嘘のように消え去った。

僕の存在など気にもせず、何もしらない子供たち。リハビリ室には、そんな子供たちの無邪気な笑い声が響き渡っていた。

完成した子供部屋。
子供たちがリハビリ以外の時間にも使ってくれたのが嬉しかった。

その後

僕が設計を手がけたリハビリ室は、今では家族の控え室になっていると聞いた。南京のリハビリセンターに新設されたその部屋は、子供たちの笑顔を生み出す場所として、仲間たちと共に試行錯誤して作り上げた特別な空間だった。

カラフルなクッションに飛び込む子供たちの姿や、壁に描かれた動物たちを見て笑う声が、完成した日には部屋中に溢れていた。
しかし、僕が転勤した後、その部屋は改装されて ”家族の控え室” という新たな役割を与えられたようだ。それを知ったとき、正直なところ寂しかった。

けれど、僕の心の中では、あの部屋の優しい光と子供たちの笑い声が今でも鮮明に蘇る。あの部屋にいた子供達の心の中でも、そうであってくれたらいいなと密かに願っている。

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JUNYA MORI
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